2011/06/17

日本のアイドルポップス史にボーカロイドを位置づける試み:洗練

今回のお話を始める前に、補足の補足を少々。「海外、特にアメリカの流行を我田引水、換骨奪胎」する過程において、極めて安直なパクリが横行していたことを強調しておかねばなりません。これを徹底的に総括・自己批判しない限り、「チョサクケンガー」とか言って既得権益を振り回すおっさんどもの説得力はゼロです。証拠があるかって?バカ言っちゃいけませんよ、レコード(=記録)そのものでしょうが!

それと、ニューミュージックの裏側には、ヤマハの存在があることを指摘し忘れていました。ポピュラーソングコンテスト、通称ポプコンですね。ヤマハという企業は極めて実直で、己の技術を広く行き渡らせるために、市場創造の努力を惜しみません。ちょっとした街に必ず音楽教室を開き、(特に女性の教養としての)ピアノを習いごととして普及させたのは、端的に言えば自社生産のピアノを売るためです。ポプコンも同様に、ギターなどの楽器を売り、再生機器としてのオーディオセットを売るのが目的のひとつであったのでしょう。70年代から80年代にかけて、この仕掛けは世間の流行に影響を与えるほど機能していたことを、憶えておいてください。

それから、男声ボーカロイドの件について、ボカロエンジンの性能上、低音域が表現しにくいため商品として出しづらいというご意見を頂戴しました。実際に制作側へ取材したようですので、これは間違いないでしょう。ただ、商品は需要から生まれます。新しい技術を単純にパッケージしただけでは、商品になりません。端的に言うと、「男声ボーカロイドを望む女性が、自分たちが想像しているよりずっと少ないのではないか」と思うのです。前回ではジャニーズを例に出しましたが、いわゆるビジュアル系バンド・アーティストの存在も、少なからず影響しているでしょう。この点を比較すると、男性が愛でる対象としての「実在」女性アイドルの数は、選択肢としてそれほど多くない。現状、AKB48 or notですし。ハロプロは死にましたしね。ここは後日詳しく説明します。


やっと本題です(なおこれ以降の意見は、友人であるT兄弟の影響が大きいことを、あらかじめお断りしておきます)。山口百恵とキャンディーズで理想の解を得たかに見えたアイドル業界ですが、彼女たちの引退前後、一種の試行錯誤期間が発じます。それは結果として、「神秘的な(≒かわいい)ルックスさえあれば、あとはスタジオワークでどうにでもなる」という、逆算的な方法論を生み出します。すなわち、アイドルを意図的にプロデュースするという行為は、この時代に生まれたわけです。例を挙げると、天地真理、大場久美子、石野真子etc.。ちょっと具体的に聴いてみましょう(映像は全く関係ないです念のため)。
大場久美子「スプリング・サンバ」
…いかがでしょう?たどたどしい歌唱とは裏腹に、異様に力が入ったオケやコーラスがお分かりでしょうか。現在では主に人件費面で絶対にペイしない方法です。レコード会社の人間がかわいこちゃんを見つけてきては、そのへんに転がってるフォーク・ロック崩れのスタジオミュージシャンを金に任せてかき集めて、レコーディングして片っ端から売りさばく。こんな贅沢が許されていたのが、当時の音楽業界だったわけです。なお、キャンディーズのバックバンドが後にスペクトラムとなり、アグネス・チャンのそれは、ムーンライダーズになったことを付記しておきます。

では、その贅沢を突き詰めたらどうなるか。この当時のCBSソニーというレコード会社は、山口百恵とキャンディーズという莫大な遺産を抱えて、極端な金余り状態だったのではないかと想像します。そういう会社がここぞとばかりに力技で繰り出したのが、松田聖子です。天性の才能に加えて、当時流行していたニューミュージックのテイストをセンスよく取り入れた、故大村雅朗氏という名プロデューサーの存在が、彼女を特別なアイドルにしました。初期のキーワードは、たぶん「南国リゾートでウキウキ気分」です。具体的に聴いてみましょう。
松田聖子「青い珊瑚礁」
「ああ 私の恋は 南の風に乗って走るわ」このフレーズだけで全てが語りつくされています。一方、オケやコーラスが、より注意深く緻密に構成されていることに注目してください。手元に資料がないので断言できませんが、大村氏が信頼していた腕利きのスタジオミュージシャンによるものだと思います。コーラスには、もしかしたら木戸やすひろ氏が既に加わっていたかも知れません。

この強靭な音楽性によって、彼女はあっという間にスターの座を駆け上っていきますが、女性ウケは必ずしもよくありませんでした。当時の彼女を評した「ぶりっ子」という言葉が象徴的ですね。その彼女に、重大なターニングポイントが訪れます。具体的に聴いてみましょう。
松田聖子「赤いスイートピー」
作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂=松任谷由実、編曲:松任谷正隆による、珠玉の逸品です。この曲によって、女性からの支持が一気に増えました。ですが、どこかで見たメンツですよね?これがすなわち、プロデュースの持つ力です。周到に計算し実力のある人材を集めて作品を作れば、世間の批判すら共感に転化できうる。文字通り「存在さえあれば、あとは力加減でどうにでもできる」ことが証明された瞬間です。

彼女は大成功を収めますが、このアイドルプロデュースの方法論は、のちにアイドルポップス大量生産のための道具となり、遂には解体されます。次回以降、それを見ていきましょう。お楽しみに。