2011/06/25

日本のアイドルポップス史にボーカロイドを位置づける試み:潜伏

また間を空けてしまった。そろそろまとめないとよろしくないね。

というわけで本題の前に前回の補足。「結果的にアイドルの神秘性を完璧に破壊した事件」が、もうひとつありました。しかも一番肝心なのを忘れてたという。それは秋元康の結婚。相手は、おニャン子クラブを卒業してソロ活動が軌道に乗り始めた、彼女たちの中でも最も人気があった高井麻巳子(会員番号16番)です。

「マミさんが食われちゃった!」

という事実に、当時のアイドルファンは絶句したものです…もちろんワタシも含めて。
高井麻巳子「小さな決心」

それと追加説明を少しばかり。YouTubeへのリンクを貼った途端に、紹介したいくつかの楽曲が消えました。宮沢りえの曲は「Moon Shooter」、観月ありさの曲は「TOO SHY SHY BOY!(THE READYMADE CATCHY MIX)」です。イタチごっこになりそうなんで、それぞれ検索などしてみてください。あ、念のため。小西康陽はピチカート・ファイヴの中の人です。


さて本題。アイドルポップス黄金時代の終焉は、アイドルによる「アイドルであることの自己否定」と、プロデューサーのネームバリューが独り歩きして職人芸的なスタジオワークが薄れていくことで、徐々に進行していきました。世の中がTKサウンド一色に染まり、音楽好きは渋谷系という、ジャンルと言えないジャンルを拠り所にせざるを得ない状況でした。そんななか、いくつかの興味深い事例が見られました。前回の宿題としてあげた4つの作品は、現在のアイドルを語る上で重要な役割を果たしますので、それぞれ説明します。

ひとつめは島田奈美「SUN SHOWER」。現在は音楽ライターである、島田奈央子さんのアイドル時代の曲です。彼女は非常にアグレッシブで、古典的なアイドルポップスから、ほとんどセルフプロデュースに近いダンスミュージックまで幅広く音楽性を広げていったんですが、この曲はアルバム「EVERYTIME I LOOK AT YOU」に収録されたものがオリジナルです。後にこれをリミックスしたマキシシングルを発売したんですが、なぜかこれが海外のDJにバカウケしてリミックス大会まで開かれたという、伝説の作品です。検索すれば他のミックスも出てきますが、彼女の唄声は、バックトラックとほとんど乖離しています。極端な話、唄声は無くてもいいくらい。音楽クリエイターによるこういうアイドルそっちのけの「お祭り」は、現在においても繰り返されています。

ふたつめは東京パフォーマンスドール「CATCH!!」。前回紹介したPVは、実はテレビ神奈川(tvk)ローカルの番組「サイバーミーム」で作成され放映されたもの。本放送時に見た人はわずかでしょう(ワタシも友人が録画していたのを見ただけ)。「ある地域や階層に遍在するアイドルの姿」の原型です。いきなり断言しますが、上記の点で、AKB48の直接の祖先はこれと言えます。詳細は省きますが、売り出し方もほとんど一緒。違いは人数と、売れたかどうか。残酷ですね。話を戻すと、ワタシはMMDのPVを見たときに強烈な既視感を覚えたのですが、主にこの番組のせいです。実例を示しますので、比較してみてください。
なお後日、VOCALOID聴き専ラジオのねずもず姐さんがこの番組の制作に関わっていたことを知り、とても感慨深かったことを付記しておきます。

みっつめは説明不要ですね。コナミの大ヒットゲーム「ときめきメモリアル」のOP。映像は現在の目線で見るといかにも古典的ですが、曲調はアイドルポップス黄金時代のそれにかなり近い点に、注目してください。ゲーム内容が「学生生活シミュレーション」ですので、これで正しいのです。当時の20歳台後半から30歳台くらいの男性がとりつかれたようにプレーしていましたが(ワタシももちろんその中のひとり)、この楽曲は、プレイヤーが過ごした学生生活を思い出せるように、周到に準備した結果と言えます。それともちろん、リン・ミンメイ以来の「バーチャル・アイドル」が、アニメからビデオゲーム…一種のコンピュータ上にプラットフォームを移して姿を現したことも、重要な事実です。余談ですが、この時期コナミが発売したときメモ関係のCDは、どれも非常にお金がかかっています。具体的に説明すると、アイドルポップス黄金時代を支えた多数のプロデューサー・スタジオミュージシャンが参加しており、非常に聴き応えがあります。いまなら中古で投げ売りされていると思うので、興味があれば探してみてください。

よっつめ。これは最近です。KOTOKO「さくらんぼキッス~爆発だも~ん~」。ある日、ぼんやりネットを徘徊していたら、「電波ソングスレ」なるものを発見して、そこで紹介されている楽曲のあまりの馬鹿馬鹿しさと音楽性の高さに目を丸くして、秋葉原中のレコードショップを徘徊するもどこにもそれらしいものがなく、意を決して「とらのあな」に入ってやっとCDを手に入れた、個人的には非常に思い入れのある作品です。それまでワタシが聴いてきたインディーズ=自主制作盤というのは、エログロナンセンス以外のなにものでもなく、それゆえ意識的に聴くことを避けていたんですね。で、いつのまにか存在すら忘れていた。その間に、楽器やDTM、録音技術は着実に進歩し、個人やサークル単位でアイドルポップス黄金時代をシミュレートできるレベルに達していた。ワタシがボーカロイド楽曲に抵抗なく移行できたのは、この事実をあらかじめ知っていたからです。

しかし、これらの興味深い事例は、みなさんご承知のように一部の人間しか知らないことです。アイドルといえばSPEED、安室奈美恵、モー娘。という時代の裏で、ひそかに行われていたに過ぎません。それが、あるきっかけにより一気に爆発を引き起こします。次回はまとめです。お楽しみに。