2013/11/07

録音芸術への愛の結晶としての「グレイテスト・アイドル」

Mitchie Mさんの「グレイテスト・アイドル」を聴いた。氏が何を目指したのかはこのインタビューで語られているので、ワタシはひとりのリスナーとして何を感じたのか、それを記しておきたい。

実際に再生してみると、ここ数年続いた音圧競争やネットに流れる圧縮音源からは明らかに一線を画した音が飛び出してきたので驚いた。オーディオマニア的な言葉で表現すれば「S/N比が大きい」「分離がいい」「定位がはっきりしている」「音の立ち上がりが速い」等々。このあたりは再生する機器と個人の感覚に依存するのでこれ以上は控えるが、久しぶりに「CDで聴いて」満足できたように思う。

ただ、その満足は、(特に前世紀の)録音芸術を多少でも知る者のひとりであるワタシの過去の体験に基づいていることを、認識しておかなくてはならない。アルバムに収録されている曲を礼儀正しく最初から最後まで順番通りに通しで聴くなどという行為は、もはや一部の好事家の趣味でしかなくなってしまった。そう言うワタシ自身が、この数年は大量の圧縮音源にまみれて「音楽を聴き捨てて」過ごしていた。CDがアイドルと握手するという体験を買うための権利書に変化して以来、しっかりとした録音をユーザーに届けるためのパッケージであることを、つまりはCD本来の目的を、完全に忘れていた。これを聴くまで気づかなかったほどに。

このアルバムは、サウンドメイキング的には現在に位置しながら、前世紀の音楽記録メディア…アナログレコードだったりカセットテープだったりCDだったり…に対するリスペクトに溢れている。初回限定版の「LPサイズ」ジャケットは最も分かりやすいところだが、アルバムタイトル、曲順、曲調、多用される逆回転やスクラッチといった「アナログ的な」エフェクト、果ては曲間の無音時間の長さに至るまで。もしかするとアナログレコードで出す話もあったんじゃないかとすら妄想してしまう。このあたりのギミックを楽しいと思えるか、それとも単なるノスタルジーと切り捨てるかは、前述したように個々のリスナーの過去の体験によるところが大きいと思う。パッケージへの執着が薄いと言われる若い人たちがどのように反応するか、CDを含めた今後の音楽記録メディアの行方を占ううえでも、非常に興味深い作品と言えるだろう。

以上、ボカロやミクに触れずに書いてみた。むしろそういうところに興味がない方々の感想を知りたいので。

…ただしひとりを除く。(た)さんの感想を伺ってみたくてしょうがないです、はいw