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2016/11/01

インスタレーションとしての『映画「聲の形」』〜チネチッタLIVE ZOUND字幕付き上映を見て

公開から時間を経て仲間との「聲の形被害者の会」(というひどい名前の飲み会)でいい具合に作品を消化できてユーフォ2期も始まったところで、川崎のチネチッタが『映画「聲の形」』LIVE ZOUND字幕付き上映を行ってると知って、これを見逃す手はないと思ったので見てきた。

そもそもLIVE ZOUNDとは何ぞや、という話から始めた方が良いか。詳細はリンクを辿っていただくとして、端的に説明すると立川のシネマシティの極上爆音上映・極上音響上映と同じように音響機材を特盛り化した上映形態であるが、シネマシティとの大きな違いは、グループ内にある老舗ライブハウスのクラブチッタで培った音響ノウハウを転用している(らしい)というところ。先日のガルパン劇場版LIVE ZOUND上映で確かめた感じでは、シネマシティは重厚で迫力があり、チネチッタはモダンでパワフルといった印象だった。なお、チネチッタは以前から「LIVEサウンド上映」と銘打った音響に力を入れた上映を行っており、劇場版ユーフォでワタシはそれを体験していることを付記しておく。

もうひとつ、インスタレーションについて軽く説明しよう。詳細はこれまた先のWikipediaへのリンクやその他の解説に譲ってざっくり言うと、「空間に設置された装置で体験を提供する現代芸術作品」といったところだろうか。芸術関係を少しでもかじっていればインスタレーションはもはや普通の表現形態のひとつと分かるけど一般の人は意外と触れる機会のないものなのかもというのは最近になってあらためて感じたことで、そのへんは現代芸術が直面する難しさのひとつかもしれない。そういう自分でさえ、現代芸術家の友人に連れて行かれた横浜トリエンナーレでの体験くらいしか語る材料がないくらいだから。名前の通り3年に1回の開催だけど次は2017年なので興味のある方は行くといいぞ。ヴェネツィアは遠いからな。

(横浜トリエンナーレの展示作品のひとつです念のため。2011年撮影)

やっと本題。『映画「聲の形」』はそう名乗る通り映画として完成しているが、そのエモーショナルな表層をぺりぺりってめくるとインスタレーション的な視聴覚表現が顔を覗かせるのではないか、というのを、2回目を見た後に感じた。

きっかけになったのは、花火大会のシーンで硝子ちゃんが手に持つカップの水面に起こる波紋。実際にやってみれば分かると思うけど、手の震えや花火の爆発の衝撃ではあんなふうにはならず、全体に波打つか外から中に向かう波になるはずである。つまり、中心から外側に向かって広がる波紋は、その中心に何かが落ちたことによって発生したものである。

その何かとは…言うまでもなく涙である。硝子ちゃんはあの場面、いや、物語のほぼ全編にわたって将也と一緒にほろほろと泣いているのである。

この「見えないものを描いている」事実に気づいたとき、『映画「聲の形」』は、表層で描かれる絵や語られる言葉と、深層に流れる意味が、ずれたり隠されたり多層化したりしてるんじゃないか、要するにひとつの現代芸術作品として見立てても通用するんじゃないかと思った。繰り返し現れる「中心点から外に広がる波紋」のモチーフと、アンビエントからエレクトロニカを2010年代的にアップデートしたような劇伴は、その分かりやすい切り口と言える。

…などと考えつつ、LIVE ZOUND上映を見た。

視覚を刺激するスクリーンには、京都アニメーションの技術の結晶のような映像が、ときには抽象画的に、あるいは文字や記号を交えて投影される。

聴覚を刺激する音響、聲と劇伴と環境音は、LIVE ZOUNDが誇る設備によって、きわめて広いダイナミックレンジで克明に再生される。

この映画は、これほど大胆で複雑で刺激的で生々しいものだったのかと唸った。映画館という真っ暗な空間で体験する、映画という形をしたインスタレーション。LIVE ZOUND上映に限っては、そう呼んでいいかもしれない。

『映画「聲の形」』は公開からかなりの時間が経ち、LIVE ZOUND上映も期間限定ゆえ体験できる人の数は限られてしまうのだが、できれば芸術的な素養が深い方にこそ体験してほしい。自分は本音を言うと酒を飲んでべろんべろんになってハイな状態でこの映画のLIVE ZOUND上映をキメたいのだが、それを実際にやるのはさすがに憚られるので自宅での楽しみに取っておこうと思う。

…ところでシネマシティさん、上映するなら何が何でも行きますよ?
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