2016/12/03

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第九回

いつもの前置き:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く。しかし今回は、「ユーフォ」シリーズはもちろん歴代の京アニ作品のなかでも屈指と思われる、複雑で難解で「とても気持ち悪い」ものなので、自分の思考や知識や言葉を総動員しても、とても追いつけない気がひしひしとしてるのだけど。例えばOP内のこのカットの謎とかな…


追記:こちらの記事がほぼ全てを読み解いているので、普通の方はそちらを読むのをオススメ。たぶんほとんど当たってると思う。読んでて唸った。かないません。白旗。






本題。作品名がそのままエピソードのサブタイトルになっているという入れ子構造の、すなわち、この回が最も重要であると宣言しているのに等しい、第九回「ひびけ!ユーフォニアム」について。まず、この時代の宇治において、田中あすかという人物がどのような位置づけでどのような評価を得ているのか、そのあたりを妄想してみたい。

あすか先輩が住んでいる田中家は、今回描かれた広さと古さから、いわゆる旧家であることが伺える(例えば「氷菓」の千反田える嬢を思い出してもらえると助かる)。



なので、「あの田中さんちの誰それがどうしたこうした」的な噂話は、古くからの宇治の地元住民の間では日常的なものだろうと思う。そういう環境下において、母親がプロのユーフォニアム演奏家と離婚して幼い一人娘を連れて実家に戻ったという事実は、相当にスキャンダラスなものとして、あすか先輩と彼女の母親の周りにつきまとってきたと想像される(先の千反田える嬢が選択した将来とは対照的)。従って、彼女が言う「枷」は、(スキャンダルの当事者として風当たりが強かったであろう)母親の呪縛だけではなく、田中家という家系、さらには宇治という古い街そのものも含んでいるのかもしれない。

しかし彼女は成長するにつれ、頭脳明晰・容姿端麗なことも相まって、「田中さんちのあすかちゃんが今度はあれこれしてすごい」的な話題を巷に提供し続けてきたと思われる。十数年ぶりに全国大会へ進出した北宇治高校吹奏楽部のこの1年は、彼女がカリスマ的存在として君臨した時代として、宇治の人々に記憶されることだろう。

そういう田中あすかという人物がユーフォニアムを演奏する背景が、今回で明らかになった。彼女は、ワタシのように平凡な環境で育った者からは想像もつかない上記のような状況に晒されつつ、エキセントリックな言動で迷彩を施しながら、おそらく一度も会ったことがない父親から贈られたユーフォを吹くのが好きだという自分の価値観を貫くために、孤独な戦いを小学校低学年から高校3年に至るまで続けてきた。姉への憧れから漠然とユーフォを吹き始めて徐々に愛着が湧いてきた久美子、吹奏楽を止めてしまった過去を密かに悔いていた麻美子ねえちゃん、恵まれた環境のもと特別になるためにトランペットを吹き続ける麗奈、子供のように無邪気な笑顔でトランペットが好きと言う香織先輩、高校受験の失敗とあすかへのコンプレックスを抱えたまま部活を止めてしまった葵ちゃん、希美先輩との絆を絶やさないためにオーボエを吹き続けてきたみぞれ先輩…これまで語られてきた他の彼女たちの「音楽を続ける・止める理由」とは全く違う世界の、その苛烈さに絶句する。学業の成績が少しでも下がったら止めるという条件をあの母親から引き出した上で、滝先生が言ったように「皆さんが普段若さにかまけてドブに捨てている時間をかき集め」ることによって、田中あすかの高度なユーフォニアム演奏は成立していたのである。







そして、北宇治高校吹奏楽部という居場所を奪われ(広い部屋がたくさん余っているにも関わらず六畳間の)自室へ引きこもった彼女が見ているのは、ネットと法学である。前者は今や当たり前なので置いとくとして、後者が明確に示されたのは彼女の今後を示唆するものとして強調しておきたい。赤本がずらりと並んでいるのはともかく、机の棚に法学入門と六法全書(!)があることから、彼女はもう大学のその先を見据えていることが分かる。そこに母親と宇治とユーフォニアムという「彼女を彼女たらしめてきたもの」は存在するのだろうか?…それは未来の彼女に尋ねてみるしかあるまい。





…やっと、「宇治を舞台にしたこの音楽劇の真の主役は田中あすかである」説の一端を披露できて満足できた。ここからはいつものように気になるところをピックアップ、と行きたいところだが、先にこちらを見てほしい。念のため説明しておくと、引用した動画は「モロボシダンとメトロン星人がちゃぶ台を挟んで対峙する」、作品を見たことがない人でも知っているであろう歴史的な場面が出てくるウルトラセブン第8話「狙われた街」、もうひとつは永久欠番なので通常であれば決して目にする機会がないはずの第12話「遊星より愛をこめて」である。ちゃぶ台のシーンのオマージュは「涼宮ハルヒの憂鬱」などでも見かけた気がするが…とにかく両方ともいつ消えてもおかしくないので(特に後者)、見るならできるだけ早い方がいい。





1967.12.17 投稿者 zyauh

先行して公開されたキービジュアルがあまりにもそのまんまだったので冗談でツイートしたら、実際に放映された第九回がまるで上記の実相寺昭雄監督の映像作品みたいな「とても気持ち悪い」絵面だらけで、気でも狂ったかと本気で思った。特撮の識者によれば、「ユーフォ」における実相寺的な気配はこれまでの回でも感じられたとのことだけど…第八回がコンサバ寄りと思っていただけに、個人的にはその落差に強烈なインパクトを感じた。あすか先輩という巨大な存在の自宅へひとり招かれた事実を受け止め切れない動揺と緊張、彼女が特別である理由とその本心を聞いた久美子が受けた想像外すぎて言葉にならないほどの衝撃の大きさを、映像で表現したらこうなった、としか言いようがない。





















これでも引用を控えたつもりなんだが…さすがに長過ぎるので今回はもう自重して止めにする。フェティシズムの極みみたいな足の描写、麗奈が滝先生の手に触れて派手にリアクションするところや、香織先輩があすか先輩の靴ひもを結ぶ場面など見どころだらけなので、そういうのは機会を改めてどこかで述べるかもしれない。

最後に、ため息が出るほど美しく描かれた、宇治川沿いの例の場所について軽く触れておこう。要するにここは、あすか先輩だけの特別なところで、その先に別の橋が架かっていて、久美子ベンチと宇治橋を挟んで点対称的な地点であるということではないかしら。あの旋律の劇伴と「ユーフォっぽくないと思ってた」あすか先輩の独奏が深く響きわたるこの風景を、彼女のそばでひとり聴くことが許された「ユーフォっぽい」久美子には及ばないまでも、いつか必ず見てみようと思う。










……そして、次の曲が始まるのです。