2015/09/06

パストフューチャー・マジカルミライ

Twitterで皆が絶賛しているのを見て自分とのギャップにかなり戸惑いながら、おそらく少数派になるであろうワタシの意見を今のタイミングでまとめておくのも決してマイナスには作用しないだろうと信じて、努めて冷静に書こうと思う。あらかじめ断っておくけど単なるdisならPV目当てでもっと露骨にやるからご安心を。もちろんこのエントリへの批判も謙虚に受け止めるつもりでいる(特に座席の位置が違っていたら印象はかなり変わっただろうと感じていることは先回りして白状しておく)。

2015年9月4〜5日、歴史的な事実として後世に語り継がれるであろう「バーチャルアイドルによる武道館単独ライブ」が決行された。この「マジカルミライ2015」自体は別館で開催される企画展なども含んでいるが今回は省略して、ワタシが見た4日夜の公演について感想その他を述べる。

ワタシの座席は1階西側でステージ中央から見て斜め30〜45度という感じ、これではディラッドボードに投影されるCGその他を細かく観察できないと早々に諦め、左にステージ、中央から右に観客席という風景を眺めながら、ハジメテ訪れた武道館という場所でミクが唄いバンドが奏でてPAから飛び出す音に浸ろうと決めた。「武道館の音響はよろしくない」という通説が一抹の不安として頭をよぎったのだが、最初からネガティブになっててもしょうがないと自分に言い聞かせていた。ライブが始まるまでは。

しかし、1曲目の「Tell Your World」が流れたところで先の不安が現実味を帯びてきた。低域の分離が悪くてキレがない。音圧がもの足りない。4曲目の「独りんぼエンヴィー」が終わった頃には、もう自分をごまかせなくなった。似たような傾向の選曲と似たようなアレンジ。演奏がひたすら一本調子で緩急や押し引きがなくリズムやビートにグルーヴ感が無い(しかもたまに演奏が走ったりして不安定だしミスもあった)。これらの瑣末と言えば些末な問題が最後の最後まで気になって結局ワタシの意識はそれに持っていかれてしまって「みんな本当にこれでいいの、満足なの」という疑問で頭の中がいっぱいになり、ライブに没入することなく「ハジメテノオト」を迎えてしまった。

終演後に皆が言っていた「新曲が多かった」というのは作品そのものの発表年ではなく「初音ミクの公式ライブで新しく演じられるもの」という意味であり、セットリストを眺めれば有名Pによる数年前の大ヒット曲(特にProject DIVAがらみ?)を並べているだけにも思えるので、本当の意味で新曲と言えるのか、新進気鋭の作曲家の作品を選ばず保守に逃げたんじゃないかという疑問は残る。また、合間に挟まる古参ホイホイ的な定番曲のチョイスはなかなか鋭いものを感じたが、出だしの「Tell Your World」は大感謝祭で、ラストの「ハジメテノオト」はMIKUNOPOLISでそれぞれ以前にやったパターンなので、個人的にサプライズは無く過去の資産の焼き直しという印象を全否定するまでには至らなかった(ワタシが知らない他の公演でも同様の構成があったかもしれない)。

一方、ステージ演出に関しては今回かなり見るべきものがあった。ディラッドボードへの投影はよく見えなかったので自分の意見は保留するとして、話によるとずいぶん鮮明だったようだからキャラ好きな人は満足できたんじゃないだろうか。また、2015年のキービジュアルである四角やキューブ状モチーフのステージ美術への組み込み方、ライト、ステージ両脇のLEDアレイ、レーザー、ミラーボール、スモークといった装置の使い方はとても洗練されていたと思う。ディラッドボードや後方スクリーンへの映り込みも計算に入れたんじゃないかと思わされるほどライティングがビシッと決まる瞬間が何度もあって、そこは場数を重ねてきた経験の賜物であろうと素直に評価したい。

それゆえ一層、まるで「2010〜13年頃のボカロックを演奏してみた」的なセットリストと出てきた音が現在の視点から見ると既に過去のものでステージ演出とのギャップを生じさせ、2013年の横浜アリーナ(で失望した最大要因)から本質的にアップデートされていない、進歩していないように思えて仕方なかったのである。2010年代半ばにギターをかき鳴らしてギューンってやって解像度を気にせずベタッとした音を出してロックですって言って面白い?…今でも面白い人はいるんだろうな。ロックはもはや古典として慣れ親しまれていて最新であることは必ずしも要求されないものだし。しかし例えば、セットリストからアゴアニキが消えラマーズPが消えOSTER Projectが消えたように、ステージ上からポップな多様性が排除されてしまった事実は指摘しておきたい。繰り返しになるようで恐縮だが、今回特に「ロックな初音ミク」を見たかった人のほとんどは武道館という場所の象徴性も込みで諸手を挙げて賞賛するだろう。だが、実際に演じられた「初音ミクのロック」は、ワタシにとってバーチャルアイドルにふさわしい未来を感じさせるものではなかった。「これがクリプトンフューチャーメディアというロックバンドの音です」と言われたら、もう「ごめんなさい」と頭を下げるしかない。と、ここまで考えて、これは本質的にマジカルミライというライブのサウンドコンセプトとワタシの相性の問題だと思い至った。横浜アリーナから2年を経ても印象が変わらないというのはそういうことなんだろう。

ボーカロイドは「歌声合成ソフトウェア」である。キャラ成分を抜いて考えたときにそれは「歌声」すなわち「音楽」と不可分と言える。新しいテクノロジーによってもたらされた「歌声」は新しい「音楽」とともにあってほしい、そのライブを公式と名乗ってやるからには、「ステージ上に投影された大きな嘘」であるところのボカロキャラを活かすために、周りを彩る「音楽」は偽りなく新しくて精緻を極めていてほしい…というのはワタシの勝手な願望である。そして公式ライブがワタシ個人の想いを実現する場である必要なんかこれっぽっちもないので、上記に書き連ねた不満は無い物ねだりそのものである。満足できなければ自分でライブイベントを企画するか今まで通りニコ動で新しい曲と新しい作家を掘って妄想を膨らませていればよい、ただそれだけの話なのだから。目ざとい何人かはもう気づいてるっぽいけど、「ポストロック」ならぬ「ポストボカロ音楽」的な萌芽は確かに感じられるからね。