2021年は世間の騒ぎと仕事とプライベートで抱えた問題のせいもあってどうにも映画館へ向かう足が重く、そうこうしているうちに映画館そのものが一斉休業してしまって、この6月にようやく、というにはまだ完全とはいかないけれども、劇場営業が再開された。
人というのは現金なもので、禁止されると逆にそうしたくなるらしい。ワタシの(アニメ)映画熱もすっかり元どおりになってしまったので、この週末はとにかく何本か見ようと決めたのが昨日のの22時頃。
このタイミングで最初に見る作品を、ワタシは
「映画大好きポンポさん」 に決めた。部屋から割と近い映画館でかなり早い時刻から上映してくれていたこと、そして何より、(数ヶ月前に見た予告編の)ルックとポンポさんの中の人(小原好美さん)の声が素晴らしかったので、個人的にものすごく期待していたからである。
以下、「映画大好きポンポさん」(特に断りのない場合は以降「ポンポさん」とカギカッコつきで呼称)について、思うところをメモ書き程度にレビュー。たぶんネタバレすると思うので、未見の方は見てから改めていらっしゃってください。
さて本題、を始める前に、どうしても言っておきたいことがある。それは
『「ポンポさん」ってポンポさんが主役じゃねえの?』
という一点に尽きる。先に触れた予告編で、チャーミングな容姿でだいたい元気ハツラツなのに幼いとも大人びたとも形容しがたくコロコロと変わる謎めいたキャラクター造形、その彼女がいかにして映画を愛し、どのようにして映画を作る(=プロデュースする)ようになったのか、それを主軸に物語が進むとタカをくくっていたのだが、実際に見たそれは、(世間的には最近「弱キャラ」と表現したほうが適切らしい)気弱な映画監督志望のにーちゃんが主役になってた。
これではまるで『草薙素子を見にきたらおっさんと犬を見せられた「イノセンス」のようなもの』ではないか。
ワタシの頭のなかに宇宙猫の画像が一瞬だけ再生されかけたが、本編が始まってすぐにどこかへ行ってしまった。こんなにエネルギッシュで濃密な映画は、少なくともここ数年でワタシが見たなかでもトップクラスだったからである。
あらすじはこんな感じ:主人公のジーンくんは他に取り柄のない映画オタクで辣腕映画プロデューサーの美少女ポンポさんのアシスタントをしていたが、ある日、ポンポさんが閃きを得て一気に書き上げたシナリオの監督に抜擢される。閃きの元になった女優志望の女の子を探し出し、隠居していた大御所俳優を紹介され、ポンポさんがコーディネイトした映画撮影スタッフが次第に「チーム」へと変わっていき…
並の映画なら、このへんまでをていねいに追うだろう。「ポンポさん」が素晴らしいのは、往々にして冗長になりがちなこれらの描写をばっさりカットしつつ、話の骨格はしっかり維持してハイテンポで進むところである。
「ポンポさん」のクライマックスは、物語の中盤以降、劇中のクランクアップ後にやってくる。ジーン"監督"が膨大な撮影素材を「映画」にするまで編集でひたすら苦悩する、これこそが本作品の主題であろう。
素材を漠然と繋ぎ合わせただけでは映画にならない。セオリーを学んでそれに則ってやってみても、きちんと消化できていなければ先人のマネになるだけである。素材を潔く捨て、シナリオ通りの展開も捨て、さらには「足りないシーンがあるので再撮影させろ」と直談判するジーン"監督"の姿こそ、ポンポさんが求め続けているものなのだろう。
完成した映画の初号試写で彼女がかけた言葉で、彼はようやくひとりの映画監督になれたはずである。
その意味で、ポンポさんは「映画好き」というより「映画を作る人が好き、映画に関わる人が好き」なんだと思う。
「ポンポさん」は、「映画における編集の重要性」を語りながら、作品そのものの編集が本当に見事で、最後まであまりに鮮やかなので唸ってしまった。主要キャスト陣の芝居も効いていたけど、個人的には女優志望の女の子…ナタリー役がいい意味で青くさくて好感が持てた。作画は2020年代の劇場作品として期待以上というか一切破綻なしでこれまた見事。強いて不満を述べるなら、劇中歌が雑というか新海誠メソッドを安易に振り回すと痛い目にあっうぞー!とポンポさんに説教されてくださいプロデューサー各位。
最後に。これだけはネタバレしないが、「ポンポさん」の見事さ、鮮やかさの理由は、見終わったあとに実感できると思う。映画って楽しい。楽しいなあ。
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