2016/12/30

ワタシがポッピンQを支持する理由

封切日にシネマシティの極上音響上映で見た「ポッピンQ」について何か書こうと思ってたけど引っ越しの余波で先送りになってしまってたのでこれからいったんカタをつける。

2016年は「君の名は。」を筆頭として(アニメ)映画が豊作であった年として記憶されることになると思うんだけど、「ポッピンQ」はその最後を飾るのにふさわしいと個人的に思った。ただ、東映はこの作品の公開を何らかの事情で当初の予定より早めたらしく、それが理由なのかは不明ではあるけどプロモーションや劇場公開規模が何かぎくしゃくしていて、現時点であまり芳しくない興行成績っぽいのが、少々残念ではある。

しかし映画の評価は興行成績やSNS上の他人の発言や扇情的なまとめサイト・腐れアフィブログのネットの毒としか言いようがない記事などによって下されるものではない。自分で見て、自分で感じて、自分で確かめるものである。この映画…いや映画と呼べない部分もあるのだけど…は、まさにそういう種類の映像作品である。


「ポッピンQ」を語るとき、「プリキュア」シリーズという"少女サーガ"の存在を忘れてはいけない。あのEDの超絶クオリティの3DCGアイドルダンスを長く手がけてきたという宮原直樹監督の初監督作品である本作でもその実力は遺憾なく発揮されており、おそらく現時点でトップレベルの3DGCダンスシーンを堪能できる。個人的には2010年代のエレクトリックなアイドルポップ風の音楽も含めてこれが劇場の大スクリーンと大音量で見られただけで元が取れたと思ってるのだけど、例えば初音ミクファンが公式ライブで見ている3DCGダンスに興味を持って次にこの映画を見に来るかどうかは怪しく、そこらへんはキャラありきで消費されがちなこの手のコンテンツの悩ましいところではある。なお2016年12月末現在、横浜にあるDMM VRシアターでは「プリキュア」の「初音ミクの公式ライブ的な」3DCGライブが上映されており、こちらも映像と音響ともに極めて上質なものであることを付記しておく。この映画をより一層楽しむために、機会があればVRシアターもぜひ。





それと、「プリキュア」を背景に持つ「ポッピンQ」は、多感な少女の夢として描かれていることを強調しておきたい。もっと言うと、セーラームーンの昔からおジャ魔女どれみを経てプリキュアという流れで連綿と紡がれてきた少女向けファンタジーの延長線上に、本作は位置している。小さい頃に見て忘れてしまった夢をもう一度確かめたいと思ったティーンエイジャーの女の子の感情の受け皿として、本作は極めて効果的に機能すると思う。その意味では確かに、視聴者を選んでしまうかもしれない。「プリキュア」と同様に、おっさんが見るには気恥ずかしいところがあるのも事実なのだ。だがそれをもって欠点とする勇気は無い。「東映まんがまつり」は子供たちに夢を見せるためのものであり、それを大人の仕事として誠実に作り続けてきたのが東映アニメーションという老舗なのだから。

ウェルメイドな作品が多くを占める現在、本作は設定やシナリオのいびつさなど気になるところがあるのを否定できないが、魅力的なキャラクターデザインと全く破綻しない美麗な2D/3D作画、そして上記2つのストロングポイントで一気に魅せる宝石の原石のような作品というのが、ワタシの評価である。これをさらに磨いて、宮原監督と、この5人の女の子たちの夢の先をもっと見たい。そして世の中のアニメがウェルメイドでリアリズム志向の作品だらけになったらやっぱりつまらないので、由緒正しい「まんがえいが」もたくさん見たい。だからワタシは断固として「ポッピンQ」を支持する。何だか分からんけど極めて中毒性が高いので、映画館で見られるうちに見ておいた方がよい。そして笑顔で2016年を締めくくろう。



最後に。POP IN Qというタイトル…パ行の発音とP-P-Qというアルファベットの連続はPPAPがネットミームとなった2016年との符合を考えるととても興味深いけど、そもそもQの意味って何だろうね。直接的にはQuintet=5人組ってことだろうけど、それだけじゃないような…?


追記:冒頭17分が太っ腹にも公開されたのでリンクしておく。走ったり叫んだり落下したりするアニメは誰が何と言おうといいものなのである。

2016/12/20

引っ越ししました

数週間前からちびちび話していた通り、新居へ引っ越ししました。記録を辿ると前の部屋は2009年7月に入居したからだいたい7年半いたことになるのか…ずっと住むつもりだったけどいろいろあって引っ越すことが突然決まったのが11月中旬くらいでロクに準備もせず引っ越し屋さんに大枚はたいて荷物だけ運んでもらった状態なので、まだ全然落ち着いてません。

現在の部屋は以前よりは狭くてボロくて行き届かないところもあるけど便利なところも増えて、特にバス停と小さな生鮮食料品店が目の前なのと大きめのドラッグストアと複数のコンビニがすぐそばにあるのが大きなメリット。その気になればハンバーガーショップとファミレスも歩いて行ける。住めば都と言うけれど、片付けばそのうち慣れるでしょう。

とりあえずいつものお約束として玄関の鍵をシリンダーごと総取っ替え、ついでにシャワートイレもDIYで取り付けた。オーディオビデオ関連はこれからゆっくり整えるとして、水回りを整理して段ボールの山を処分するのが先だなあ。引っ越しはモノを運ぶより環境を元に戻すのがめんどくさいね。

2016/12/09

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第十回

いつもの前置き…は、そろそろいいか。もう好き勝手に書く。特に今回は深読みでも何でもないスクリーンショットを引用するだけのものだしな。



第十回「ほうかごオブリガード」について。今回のエピソードは、久美子と麻美子ねえちゃんの別れと、久美子があすか先輩に全力で挑みかかる姿が描かれる。その話をする前に、ちょっとだけ自分語りを許してほしい。


2016/12/05

「ユーリ!!! on ICE」をめんどくさいアニオタのおっさんが見てみた

ワタシがこの作品について何か書くのが一部で期待されてるみたいなので、「ユーリ!!! on ICE」を最新話まで(途切れ途切れで一部が抜け落ちたりしてるけど等倍速で)見た。実は「ユーフォ2」の視聴準備のために見るのを途中で止めた作品だったんだけど、とある識者に視聴継続すべしとのアドバイスをいただいて録画だけはしておいたのだ。以下、思うところを述べる。

端的に言うと、ものすごくもったいないTVアニメだと思う。

ワタシの場合はどの作品でもほとんどストーリーやキャラクターに重きを置かず、動く絵と鳴ってる音に注目することが多くて、そういう偏った者からすると、特にスケーティング場面の作画、滑らかでスピード感のある身体の動きや衣装のラメの輝きの描写などは目を見張るものがある。個人的には(多彩なジャンプの種類を競技者ごとに描き分けてるような)その執念を真っ先に評価してほしいところだけど、一般的にはストーリーとキャラに対する言葉が並ぶばかりなので、こういう良さはなかなか伝わらないのかなあと思ったりする。そのカロリーの高いスケーティング場面に比べて、他はTVアニメのテンプレに近い、一般的には親しみすいと思われる表現(デフォルメされた表情など)を多用していて、背景もわりとあっさりめなので、対費用効果の高い絵面に見える。個人的には、フィギュアスケートという芸術性の高いモチーフを考えればもっとシリアス方向に振ってしまっても良かったんじゃないかと感じるんだけど、主要マーケットであろう女性陣には、こちらの方が受け入れられやすいと考えたのかもしれない。

それと気になったのが、このTVアニメの視聴者の視点を曖昧にさせている画面構成。「競技を実際に会場で見ているのか、それともTV中継を見ているのか」が絵として定まっておらず、TV中継を模したテロップ入りのカットの後に、実際のTV中継では絶対に出てこない競技者の足下のアップが出てくるなど、カメラがあっちへ行ったりこっちへ行ったりするので、没入感が削がれてしまう。これは競技者が大きな会場いっぱいに動き回るのと、世界中をサーキットで回る大会を大半の人はTV中継で見ているという、フィギュアスケート競技の置かれた状況から逆算されたものかもしれない。個人的には、TV中継を模した画面より会場特有の生の空気を切り取ってくれた方がうれしいのだけど…その一方で、多彩なジャンプを解説抜きで見せられてもほとんどの人は違いが判別できないだろうから競技中にアナウンサーと解説者をしゃべらせるのは英断とも思えるし…難しいところではある。

もうひとつは音楽。最近フィギュアスケートから離れていて数年前のルール改正でアイスダンス以外でもボーカル曲が使えるようになったのをこの作品で知ったんだけど、実際の競技から受ける印象がルール改正前とはまるで別物に思える。例えばこんなの。曲については説明しなくてもいいよね…?:



現実の、しかも現時点で世界最高の選手のひとりがショートプログラムの時点でこんなんなっちゃってるのに、それが劇中では充分に表現できてないように感じる。どうせTVアニメでやるんだったら、もっと大胆に攻めた曲を使っても良かったのでは?せっかく金脈を掘り当てたのに何とも勿体ない…そういう意味ではスケーティング場面でいちばんカッコいいのが、EDM・ベースミュージックの系譜が感じられるOPなのが、何とも皮肉ではある。



というわけで、誰と誰がイチャついてどうこうという話にはコミットできず、自分の興味が持てる場面がそれほど多くないので、いまひとつのめり込めてはいないんだけど、何だかんだで最後までは見ちゃうと思う。ちなみに付け加えておくと、伊藤みどり選手が女子フィギュアスケート競技をたったひとりで一変させてしまった頃から浅田真央選手がルールの壁に敗れ去るころまでチビチビとTV中継を見ていた、キャンデロロ選手とプルシェンコ選手のエキシビションが大好きなヌルいフィギュアスケートファンでした、ワタシ。ジャンプの種類はアクセル以外いまだに見分けがつかんからなあ…

2016/12/03

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第九回

いつもの前置き:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く。しかし今回は、「ユーフォ」シリーズはもちろん歴代の京アニ作品のなかでも屈指と思われる、複雑で難解で「とても気持ち悪い」ものなので、自分の思考や知識や言葉を総動員しても、とても追いつけない気がひしひしとしてるのだけど。例えばOP内のこのカットの謎とかな…


追記:こちらの記事がほぼ全てを読み解いているので、普通の方はそちらを読むのをオススメ。たぶんほとんど当たってると思う。読んでて唸った。かないません。白旗。

2016/11/25

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第八回

いつもの前置き:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く…けど、今回はいつものノリとは違うので、今までお付き合いいただいてた方にも正直オススメできません…もし読んでしまって変な熱が出ちゃったら、サファイア川島に頭突きで体温を測ってもらってください。


2016/11/20

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第七回

いつもの前置き:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く。と言っても今回は個人的に第五回に匹敵するほど、いや、第1期を含めても異様に密度が高くて全く思考が追いついてないんだけど。



2016/11/14

ワタシにとっての「この世界の片隅に」

たまに実家へ帰ると、母はいつもの服装で、おだやかな表情をして座っている。

そういう母は昔、子供だった頃の体験を話してくれた。根室の空襲で焼け出されたこと、仕方なく移り住んだ田舎で幼い兄弟姉妹揃って畑仕事に駆り出されて、蹴飛ばしても言うことをきかない農耕馬に腹を立てて悔し泣きしたこと、味方の飛行機だと思って手を振ったら敵で、機銃掃射を食らって間一髪で助かったこと。

田舎の中学校を卒業してから家事手伝いのまま成人した母は、そういう体験から来るのだろうか、愛想笑いが得意なだけの、学がなく、世間知らずで、心配性で、とても臆病な人だった。ずっとそう思っていた。

父とは見合い結婚したと聞いている。その父は小樽港に潜っては不発弾を拾って遊んでいたというのだから性格は正反対に近いのだけど、どのような経緯で父と母が結びついたのか詳細は知らない。ただ、結婚して父の家庭に入ったとき、祖母や父の兄弟姉妹…自分の叔父叔母からかなりひどい扱いを受けたというのを、母がよくこぼしていた。

そういう母は幼い頃のワタシを少し虐待していた。何かにつけてはワタシを自分の膝の上に座らせ、何度も頬をつねった。やわらかくて気持ちいいからという母の言葉をワタシは忘れていない。母からかわいがられているんだというのと、母に弄ばれているんだという感覚を同時に覚えながら、黙ってされるがままにしていた。

母は家事手伝い時代に学んだらしい洋裁をたしなみ、ワタシと兄姉の服や小物をよく作ってくれた。ワタシは末っ子なので兄姉のお下がりが回ってくることが多かったけれど。料理も得意で工夫するのが好きだったらしく、普段の食事は質素ながらも並以上の味のものが食べられた。ちょっとしたパンケーキや片栗粉に砂糖を入れて湯がいたものなどの質素なおやつは、他の菓子よりもワタシのお気に入りで、母に頼んではよく作ってもらっていた。

自分が中学生か高校生の頃だろうか、母の実家へ遊びに行ったとき、押し入れの中からこんなものが出てきたと言って叔父が持ってきたのは、母の兄弟姉妹が様々な服を着て、広い間取りの家が描かれた、幼い頃の母の絵の数々だった。母は、それまで見たことが無いような表情を浮かべながら、そんなものさっさと捨ててほしいと言った。ワタシはその絵を見て、母が夢に描いたような家を建ててやりたいと漠然と考え、それが進路を選択する動機のひとつになった。結局その夢は果たせていないのだけど。





片渕須直監督の映画「この世界の片隅に」を見始めてすぐに思い出したのは、このようなワタシと母との記憶の数々である。能年玲奈あらため「のん」が演じる主人公のすずさんの生きざまは、もしかしたら道東の田舎で生まれ育ち父の元へ嫁いだ母の人生の追体験なのかもしれないと感じてしまう瞬間が何度もあった。冒頭に挙げた、母の話と共通する場面がとても多かったから。なので、とても他人事とは思えなかった。

すずさんがそうであったように、母もまた、この世界の片隅でひっそりと生きてきたひとりである。そんな無名の人たちがどこにでもいたことに、あらためて想いを馳せる。





実家に帰ると、母はいつも微笑んでいる。

頬をつねられることはとっくの昔に無くなった。ミシンはもう何十年も動いていない。たまに帰ってきたんだから得意料理の数々を食わせてくれと頼んでも、それが出てくることはもう無い。母の実家はずいぶん前に引き払われたらしいので、あの絵も処分されてしまったはずである。だから、戦争当時の体験を尋ねても、何も答えてくれないだろう。数分前に話したことさえ忘れてしまうから。

映画館を出てしばらくそんなことを考えながら歩いていたら、不意に涙があふれて止まらなくなった。いまの母の、何の思考も経ていないオウム返しの会話も、あの曖昧な微笑みも、もうすぐ永遠に失われるという事実を突きつけられたから。それを何年も前から覚悟していたはずなのに、準備もしていたはずなのに、結局何ひとつできてないことが分かってしまったから。もっと話しておけば、もっと聞いておけば、そんな後悔が一気にこみ上げてきて、街中でぼろぼろと泣いてしまった。





近いうちに実家へ帰ろうと思う。母がこの世界を忘れてしまう前に。

「響け!ユーフォニアム2」深読み番外編その2:疑似劇場版ユーフォ2のススメ

第五回でアニメ史に残るであろう一大クライマックスを迎えてから第六回でまたギアチェンジしたように見えるユーフォ2、第六回Aパートのゆるいノリが第1期の第六回くらいまでに近くてすごく好きなんだけど、そこらへんを考えると、第一回〜第五回と第六回以降は、実質的な「2」と「3」であると見なしていいだろう。

そういうわけで今回は、「実質的な2」を今後何度も繰り返して見るファンの皆さんへ向けた、ちょっとした提案というかお遊びである。


2016/11/11

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第六回

いつもの前置きを再び:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く。こんなのを読むおまえらなんかお化けに取りつかれて呪われてしまえー!!



2016/11/06

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第五回

いつもの前置きを今回はやめることにした。いまだに考えがまとまらないので散漫なメモ書きみたいになるのを許してほしい。

さっそく本題。第五回「きせきのハーモニー」について。以前『舞台装置としての宇治』という一連の記事を書くにあたって第1期を見直した際、ユーフォの「アニメの文法に極めて忠実な」構成に驚いたことがある。その疑問を解決しようとしてネットを探ると、木上益治氏の存在に必ず行き着いた。あの沖浦啓之氏をして「京都ではアニメーターの何たるかは、木上益治さんの背中を見ていれば全てわかるはずだ」と言わしめる、全てを兼ね備えた天才とさえ称されるような、京都アニメーションの重鎮である。そういう人物が今回、絵コンテと演出を担当していることを踏まえた上で話を進めたい(石原監督も共同で絵コンテをやっているけど)。氏が第1期で手がけられた第五回第十二回がどのようなものだったかを思い出してもらえると助かる。

2016/11/01

インスタレーションとしての『映画「聲の形」』〜チネチッタLIVE ZOUND字幕付き上映を見て

公開から時間を経て仲間との「聲の形被害者の会」(というひどい名前の飲み会)でいい具合に作品を消化できてユーフォ2期も始まったところで、川崎のチネチッタが『映画「聲の形」』LIVE ZOUND字幕付き上映を行ってると知って、これを見逃す手はないと思ったので見てきた。

そもそもLIVE ZOUNDとは何ぞや、という話から始めた方が良いか。詳細はリンクを辿っていただくとして、端的に説明すると立川のシネマシティの極上爆音上映・極上音響上映と同じように音響機材を特盛り化した上映形態であるが、シネマシティとの大きな違いは、グループ内にある老舗ライブハウスのクラブチッタで培った音響ノウハウを転用している(らしい)というところ。先日のガルパン劇場版LIVE ZOUND上映で確かめた感じでは、シネマシティは重厚で迫力があり、チネチッタはモダンでパワフルといった印象だった。なお、チネチッタは以前から「LIVEサウンド上映」と銘打った音響に力を入れた上映を行っており、劇場版ユーフォでワタシはそれを体験していることを付記しておく。

もうひとつ、インスタレーションについて軽く説明しよう。詳細はこれまた先のWikipediaへのリンクやその他の解説に譲ってざっくり言うと、「空間に設置された装置で体験を提供する現代芸術作品」といったところだろうか。芸術関係を少しでもかじっていればインスタレーションはもはや普通の表現形態のひとつと分かるけど一般の人は意外と触れる機会のないものなのかもというのは最近になってあらためて感じたことで、そのへんは現代芸術が直面する難しさのひとつかもしれない。そういう自分でさえ、現代芸術家の友人に連れて行かれた横浜トリエンナーレでの体験くらいしか語る材料がないくらいだから。名前の通り3年に1回の開催だけど次は2017年なので興味のある方は行くといいぞ。ヴェネツィアは遠いからな。

(横浜トリエンナーレの展示作品のひとつです念のため。2011年撮影)

やっと本題。『映画「聲の形」』はそう名乗る通り映画として完成しているが、そのエモーショナルな表層をぺりぺりってめくるとインスタレーション的な視聴覚表現が顔を覗かせるのではないか、というのを、2回目を見た後に感じた。

きっかけになったのは、花火大会のシーンで硝子ちゃんが手に持つカップの水面に起こる波紋。実際にやってみれば分かると思うけど、手の震えや花火の爆発の衝撃ではあんなふうにはならず、全体に波打つか外から中に向かう波になるはずである。つまり、中心から外側に向かって広がる波紋は、その中心に何かが落ちたことによって発生したものである。

その何かとは…言うまでもなく涙である。硝子ちゃんはあの場面、いや、物語のほぼ全編にわたって将也と一緒にほろほろと泣いているのである。

この「見えないものを描いている」事実に気づいたとき、『映画「聲の形」』は、表層で描かれる絵や語られる言葉と、深層に流れる意味が、ずれたり隠されたり多層化したりしてるんじゃないか、要するにひとつの現代芸術作品として見立てても通用するんじゃないかと思った。繰り返し現れる「中心点から外に広がる波紋」のモチーフと、アンビエントからエレクトロニカを2010年代的にアップデートしたような劇伴は、その分かりやすい切り口と言える。

…などと考えつつ、LIVE ZOUND上映を見た。

視覚を刺激するスクリーンには、京都アニメーションの技術の結晶のような映像が、ときには抽象画的に、あるいは文字や記号を交えて投影される。

聴覚を刺激する音響、聲と劇伴と環境音は、LIVE ZOUNDが誇る設備によって、きわめて広いダイナミックレンジで克明に再生される。

この映画は、これほど大胆で複雑で刺激的で生々しいものだったのかと唸った。映画館という真っ暗な空間で体験する、映画という形をしたインスタレーション。LIVE ZOUND上映に限っては、そう呼んでいいかもしれない。

『映画「聲の形」』は公開からかなりの時間が経ち、LIVE ZOUND上映も期間限定ゆえ体験できる人の数は限られてしまうのだが、できれば芸術的な素養が深い方にこそ体験してほしい。自分は本音を言うと酒を飲んでべろんべろんになってハイな状態でこの映画のLIVE ZOUND上映をキメたいのだが、それを実際にやるのはさすがに憚られるので自宅での楽しみに取っておこうと思う。

…ところでシネマシティさん、上映するなら何が何でも行きますよ?

2016/10/30

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第四回

いつもの前置き:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く…とは言うものの、今回はほとんど記録映像のように剥き出しの感情が画面に焼き付けられているので、深読みも何もあったもんじゃない。意味深なカットは例えばこことか、ほんのわずかだけだし。



2016/10/23

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第三回

いつもの前置き:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く。先日ガルパン劇場版LIVE ZOUND上映を見たら3DCGによる動く背景もパノラマ写真的な背景も当たり前の手法なのが分かって自分の視野の狭さを思い知ってショックを受けてるのと、2期の情報量に頭がついていかなくなってるのとで、もはや深読みでも何でもなくなっちゃってる感じだけどな。

2016/10/17

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第二回

前置き:何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。

警告おしまい。あとは好き勝手に書く。レッツプール!!


2016/10/13

「響け!ユーフォニアム2」深読み番外編その1:オープニングの「ステディカム的映像表現」について

まだ始まったばかりなのにいきなり番外編。ネタバレなしだから安心してください。

第一回を取り憑かれたように繰り返し見ていて、オープニング(OP)のモノクロ映像に涙しながら、突然こんな顔になった。


「これって」
「背景や」
「机が」
「動いちゃってる〜?!」

このモノクロ映像部分、ほぼ全編にわたって背景と教室内の机や楽器が3DGCで描かれていて微妙に動いているのが分かったときは、さすがに我が目を疑った。百聞は一見に如かずなので、いちばん分かりやすいところを抜粋してみた。


夏希先輩が上半身を横倒しにするのに合わせて、背景や机が動いている…正確には、「この場面を教室内で撮影している手持ちカメラがわずかに動いたのでこういう映像が撮れた」ように見える。

この「あまり手ブレせずぬるりと動く映像」は、ステディカムで撮った雰囲気によく似ている。これも実物を見てもらった方が早い(3:59あたりから)。



お分かりの通り、こういった器具を実写で使えば素人でもそれっぽい映像が撮れてしまうんだけど、そういう今っぽい表現をアニメに持ち込むために、キャラクターの居る3DCG空間を丸ごと作り起こして、その空間内に擬似的なステディカムを配置して、カメラ位置をいかにもそれっぽく動かすことで、このシーンは出来ている。「実写なら簡単にできるけどアニメではとてもめんどくさい」というのが感覚的に分かると思う。

ユーフォ1期で目立った、もちろん他のアニメ作品でも多用されているカメラの手ブレ的な映像表現は、2次元の絵全体を上下左右に細かくランダムに動かすことで実写っぽく見せる手法である。これは乱暴に言えば「出来上がった絵をずらしてコマ撮りすればいいだけ」だから、コストパフォーマンスよく画面をリッチにできる手段だったはずなのである。その一歩先のリアリティを求めて今風の「ステディカム的映像表現」に向かうのは気持ちとしては分かるんだけど、それを目立たせることなく作り込んでOPに入れてくるあたりに、「2期は新しいカメラで撮る」、新しいアニメの表現を開拓するという異様なほどの意気込みを感じる。

さて、じゃあこのモノクロ画面は誰が撮ったんだということになるんだが…写真係の萩原笙子先輩やサファイア川島という線も考えられるけど、色が戻ってきた後半の演奏シーンでも微妙にそれっぽい部分が出てきたりするので、正体は不明。まあそういう誰かが偶然その場にいたってことにしておこう。

ちなみにOPはどのカットも捨てがたいけど、いちばん好きなのはここ。座奏してるのにダイナミックな動きがたまらない。喜多村&岡先輩のファゴットコンビが好きってのもあるけど(笑)。


そして、次の曲が始まるのです。

2016/10/08

「響け!ユーフォニアム2」深読み:第一回

ついに放映が始まった「響け!ユーフォニアム2」(以降、今後の一連の記事ではユーフォ2または2期と呼称)。その第一回、9月の先行上映会で見たはずのワタシのような人間でさえ鈍器でぶん殴られたような衝撃を受けて全身の毛穴が開いてアドレナリンがダーって出てる感じがずっと続いてしまうのはさすがに体力が続かないので、思うところを順次ここへ放出していくことにする。何をどう工夫してもネタバレは避けられないし、そもそも自分が考えてることは明らかに他の皆さんと違っちゃってるようなので、まだ見てない人はもちろん既に見た人も含め、作品を素直に楽しみたい方は、この記事の存在を忘れてください。ただの感想文とか楽しい感じには絶対にならないので、そういうのを期待してる人は読まないでください。たぶん後悔するので。

これだけ警告しておけばいいかな。あとは好き勝手に書く。

2016/10/01

DAIMお蔵出しこぼればなし

2016年春に活動を休止したネット音楽レビューサイト・DAIMで、自分が書いた楽曲レビューを思うところあって先ほどここで再公開した。

DAIMについてはもう忘れられてる頃だろうから、軽く説明しておく。現Stripelessレーベルのボス・しまさんとワタシが2012年8月下旬に共同設立した、「全ての音楽を掘りつくす勢いでやる」楽曲レビューサイトがDAIMであった。以降の約3年半、ボーカロイド楽曲寄りではあったが、我々を含めたチームメンバーがインディペンデントなネット音楽について何か感じたことをレビューに仕立てて発表する場として、少しは何かの役に立てたかもと現在は思っているところである。

DAIMの意味やなぜ誰でも参加できるようにしなかったのか等のネタばらしは別の機会に譲るが、このままDAIMのサイト(Tumblr版とWordpress版の2つあった)が消滅したままだと自分の書いた文章が闇に葬り去られるため、今回サルベージすることにした。また、DAIMの最盛期を知らない方から最近「DAIMが読めないのでどういうものだったのか分からない」というご意見をいただき、そうは言っても全レビューを自分の一存で再公開するわけにもいかないので、ワタシの責任が持てる範囲、すなわち自分が書いた文章をなるべくそのまま転載して、少しでも当時の雰囲気を味わってもらえるようにした。そのため、基本的には原稿を丸ごとコピーして貼り付けただけで、リンクがおかしかったり変な間が空いたり一部のコンテンツが消えたりしている。作者と曲名は正しいので、必要なら各自で検索するなりしてください。

さて各レビューのリストと、執筆時の意図などを軽く解説:
  • t.Komine(うたたP) / 鳥居羊 / “こちら、幸福安心委員会です。”
    DAIM設立時に「ここではメジャーな曲を積極的に扱っていこう」という個人的な方針を決め、そのとき最も気になっていた作品をピックアップしたもの。「プロパガンダ」という単語を導き出して動画の扇情的な絵と扇動的な歌詞、そして強烈なビートをかなり強引に結びつけた感じ。
  • ゴジマジP / “おちゃめ機能”
    「メジャーな曲を積極的に扱う」と決めた際に、これも書こうと真っ先に決めたもの。ニコ動ネイティブなボカロPの筆頭と個人的に思っているゴジマジP=ラマーズPを、なるべくフラットに評価しようという試みでもある。氏の腕前は最近ますます磨きがかかっていて舌を巻くばかり。
  • daniwell / “WHISPER MOMOKO”
    ネットミーム化した「Nyan Cat」の元曲の作者であるdaniwell氏のアイディアと、「Nyan Cat」を唄っている桃音モモの中の人である藤本萌々子さんの声素材が合わさって、インタラクティブアート的な雰囲気を醸し出した作品。「全ての音楽を掘りつくす勢いでやる」方針の個人的な具現化の一発目。
  • 名無しさん / “生演奏 ちんこ音頭 Jazz Ver.”
    CGM/UCGと呼ばれる行為がまるでニコ動やボカロ、ピアプロ等で始まったみたいな言説をぶち壊したくて書いたもの。掘れば似たような話がもっとあるはずで、そういう先例があるのを抜きにして議論を組み立てたくなかったので。このあたりはDAIMの仲間だったアンメルツPの知見にかなり影響されたりもしている。
  • 鼻そうめんP / “YOUTHFUL DAYS’ GRAFFITI”
    モストフェイバリットボカロPのひとりである鼻そうめんPの作品から最高に笑える作品をピックアップしたもの。最後の「R」が昭和軽薄体なのに気づいた読者が何人いたのか、ちょっと自信が持てない(笑)。
  • 委員長 / “台湾人が中国語で「いーあるふぁんくらぶ」を歌ってみた”
    2012年のミクパ香港・台湾ツアーにぶつけて書いたもの。原曲ではなく台湾の方が中国語に翻訳して歌ったこの作品を取り上げたのは、「歌ってみた」が原曲の強さに負けず、バリューを付加できることもあるのを強調したかったから。何度聴いても日本語で歌われるパートにグッときちゃうんだよなあ。
  • 曲者P / “10月の雨”
    選曲は完全に趣味。今までいろんなところで書き散らしてきたなかで、どうしても拾い上げたかったけどその機会に恵まれず、ついにここで書くことができて、当時は勝手に感無量になってた。
  • ぱきら / “Ribbon~脱・女のコ宣言”
    これも完全に趣味。ニコ動以外にも良曲が存在するのでケアしようよという呼びかけの意図もあった。あとQlairちゃんって言いたかっただけだと思う。
  • 島白(よだれP) / “初音ミクが「ほしのこもりうた」歌いやがった【リローデッド】”
    2008年8月31日が忘れられない日になったのはこういう良い作品群が同時多発的に投稿されたからというのと、ボカロ曲が新しいジャンルの音楽との出会いの導線になっているというのの両方を書いたつもり。作品が非公開になっているのがつくづく惜しまれる。
  • kz(livetune) / “Tell Your World”
    Google Chromeの例のCM公開1年後にぶつけて、その映像をテキストで表現しようと試みたもの。当時のニコ動で「初音ミクオリジナル曲」タグを検索して再生数順に並べた上位30曲からネタ(=その作品を連想させる言葉)を拾い集めて、「自動車ショー歌」のn番煎じに仕立て上げた。今となっては何故39曲にしなかったのか不思議でならない。
  • OSTER project / “【初音ミク】恋スルVOC@LOID -テイクゼロ-【おまけ】”
    初音ミクの代表曲の「虚構の別テイク」を紹介しながら、彼女のキャラクター形成がある意味で自覚的に行われていったという指摘をしたかったもの。これを書いた当時、「こんな曲があるなんて知らなかった」という反応が散見されたのが少々驚きではあった。
  • Treow(逆衝動P) / “Chaining Intention”
    趣味の選曲だけど、「これを聴いてボカロ曲にハマる若い奴が絶対いるだろうな」と当時思っていたのも確かで、それを素直に書いた。なお文中の「ワタシ自身のトリガー楽曲」とは、坂本龍一の「Riot in Lagos」です。
  • ちえ / “フライングスタート”
    これも趣味の選曲。聴いた当時はぽかんと口を開けて呆然としながら「世の中には得体の知れない天才めいた奴が少なくとも1人いる」という事実に戦慄していた。時を経てついにメジャーデビューするところまでいったのも、当然の帰結だと思う。
  • くちばしP / “EX-GIRL”
    さらに趣味の選曲。異様にポップなのに謎めいてる歌詞についてとにかく書いてみたかった。氏はある時期を境にぷつりと音沙汰が無くなったが、最近になって活動を再開しているようで何よりである。
  • ケフィアP / “VOCAL-ENGINE”
    これを書いた時点で既に忘れられようとしていた、クルマのサンプリング音とボカロによるラップで構成された画期的な作品をサルベージしようとしたもの。何度聴いてもカッコいい。
  • ZANEEDS / “ジャイアンリサイタル”
    モストフェイバリットボカロPのひとりであるZANEEDS最後の名曲。非常に思い入れがあるので書くのをためらっていたが、文中の動画がきっかけとなって扱うことに決めた。ざにおは現在では蒙古タンメンマンに転生したようだが…(笑)。
  • RUBY-CATMAN / “Computer Music Love”
    モストフェイバリットボカロPのひとりであるRUBY-CATMANさんの作品をどうしても取り上げたかったので書いた。公式ライブでルビーさんの曲をやるようになったら誰か教えてください。
  • Gun-SEKI / “『恋の2-4-11』フルバージョンでいっくよー★”
    書いた時点では「艦これ」を遠目で眺めるエア提督だったんだけど、いきなりこういう作品が出てきて非常に驚いたので勢いに任せて書いたもの。もはや「艦これ」も一大コンテンツに成長してしまって、いろいろと感慨深いものがある。
…こんなところかな。レビューの裏話を書くことなんてめったにないけど、今後似たようなことをやる誰かの参考に少しでもなってくれれば、それだけで満足。こうやって振り返ってみると、全然成長してねえなあと思うばかりだけど。

DAIMお蔵出し:Gun-SEKI / “『恋の2-4-11』フルバージョンでいっくよー★”

  1. 「恋の2-4-11」って何だか知ってる? 
    (」゚Д゚)」<教えてー!!!! 
    …申し訳ない、ワタシは「艦隊これくしょん」通称「艦これ」を遠巻きに眺めている「エア提督」なので(提督とは「艦これ」プレイヤーの俗称)、何かを教える立場にない。「艦これ」そのものについては他の解説記事および各種書籍を参照してほしい。
    さてこの作品は、上記の「艦これ」書籍のひとつに収録されたキャラクターのイラストを元に、プレイヤー…いや提督の皆さんの間で生まれたお約束を踏まえて、まずショート版が制作され、そしてフルバージョンが公開された。ポップでキャッチーで能天気なサウンドは、提督諸氏以外にも魅力的に聴こえるだろう。念を押しておくが、これは公式なものではない。あくまでも提督のひとりが勝手に作ったイメージソングである(現時点では)。
    少数のイラストや約束事といったわずかな手がかりからキャラクターを独自に造形して歌詞に落とし込むこと、ショート版からフルバージョンにアップデートしてクオリティを高めること、ギャグなどを織り交ぜてメリハリをつけること、電波ソングまたは音ゲー的なアレンジに振ること等は、ニコ動のサービスイン以前から続く同人音楽制作手法の主流のひとつと言える。この曲に一種の安心感や懐かしさを覚えるのは、そのあたりが原因だろう。
    また、いまや戦国時代と呼ばれる現在の女性アイドル界を強く意識していることも見逃せない。3次元どころか2次元にも溢れ出した彼女たちのライブは壮観の一言である。彼女たちの持ち歌はその「現場」のために最適化され続けているが、この作品もまた、愚直なまでにアイドルポップスのフォーマットを踏襲している。
    彼女たちアイドルがそういう「現場に最適化された曲」を歌い踊るとき、ステージの上下または画面の向こうとこちらで、ある種のインタラクションが自然発生する。
    3次元なら一斉に振られるサイリウムや統制のとれた掛け声だが、ニコ動の場合は色とりどりのコメントの山として眼前に現れる。その賑わいっぷりこそが、最新型のバーチャルアイドルへと捧げられたこの作品の真骨頂である。
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    ■music&lyrics:Gun-SEKI
    ■illust:きんのたま▼
    (※MMDモデルについては動画をご参照ください)
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DAIMお蔵出し:RUBY-CATMAN / “Computer Music Love”

  1. 「初音ミク現象」を語るときに決して忘れてはならないものがある。
    CGMやUCGといった、難しい言葉は要らない。
    今こそ叫ぼうではないか。
    コンピューターと音楽への愛を。
    この作品のモチーフとして描かれるコンピューターは、1980年代のスタンドアローンなものではなく、90年代から現在まで続く、インターネットに接続された端末群をイメージさせる。
    人と人を繋ぐそれは、常に持ち歩けるまでになった。手のひらから発したメッセージは、リアルタイムで世界の向こうの誰かにまで届く。
    例えば、海に放ったガラスの小瓶。かわいらしくしたためた封筒と便箋。到達時間を無視すれば、あなたの目の前のスマートフォンは、実はそれらの代わりに過ぎない。ただし、ひとつだけ違いがある。
    文字と一緒にいろんなものが送れること。
    スタンプや写真、動画、そして、音楽。
    ニコ動やYouTubeで見つけた作品のURLを友人や仲間に送って、すぐにシェアして楽しむ。かつての我々のように、レコードショップで音源を発掘しなくても、音楽雑誌を隅々まで読み込まなくても、元ネタを知らなくても、もう構わない。
    そういう重力を振り切ってしまおう。
    初音ミクが発売されて、もうすぐ6年を迎える。一方、作者のRUBY-CATMANさんは、この作品を2012年12月25日にニコ動で発表した。音楽の長い歴史からすればほんの一瞬に過ぎないが、この幸運な出会いを喜びたいと思う。
    これは、6年前に届いていたミクさんからの手紙を開いたら、きれいな押し花がはらりと舞い落ちてきた、そんな曲である。
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    ■music&lyrics RUBY-CATMAN
    ■illust ラグ
    ■movie 千音子
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DAIMお蔵出し:ZANEEDS / “ジャイアンリサイタル”

  1. 2012年末で事実上解散した、ざにお氏率いるZANEEDSのラストシングル。この曲をレビューする気になれるほど哀しみは癒えていなかったのだが、今回とある理由により取り上げてみることにした。
    ご存知の通り、ZANEEDSはボカロシーン(と敢えて記すが)に対して、思いっきり斜に構えていた。ネットで拾ってきたようなネタに走り、笑わせ、泣かせ、挑発して、困惑させた。その一方で海外展開を視野に入れ、実際に何度も渡航していた。
    この、ニコ動というよりも日本のドメスティックなネットカルチャーを強く意識しながら海の向こうへダイレクトに打って出るという両極端なスタンスは、いったい何に裏付けられていたのだろうか。
    この作品は、上記の謎を解くのに最適である。
    タイトルと詞は、オタクでなくても分かる国民的なお約束。変拍子によるトリッキーな構成に、チップチューン風味をわずかに効かせたフレーバー。いつもの「ざにおん家の」ミクの唄声。これらが実は伏線であり…サビで全て持っていくカタルシスとして爆発する。
    が、これらの「ギミック」は、あくまでも氏の照れ隠しであろう。小さくて静かで途切れ途切れで、しかし丁寧に奏でられるピアノの音色こそが、彼の託したメッセージに思えてならない。この音が聴こえる限り、想いは必ず伝わるはずだと。
    だから、たとえネタとして消費されても、たとえ言葉が通じなくても、ZANEEDSの音楽は我々の心を揺さぶり続けるのだ。
    2013年以降、氏はソロとしても新曲を発表していない。だが、音楽が大好きなあなたはきっと自分に嘘をつけない。その証拠に、今でもよく海外に行ってるじゃないか。まあ個人的な趣味なのも分かるけど。
    いいよ別に。引き出しが開いた机の前で、膝を抱えて座りながら待ち続けてやるから。
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    ■music:ざにお
    ■illust:CHAN×CO
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    ※冒頭に書いた「とある理由」とは、この曲をフィーチャーした「【OP動画】ジャイアンリサイタル【みらいのねいろ@AnimeExpo2013】」を見て感動したためです。とにかく素晴らしいので、ぜひ一度ご覧ください。

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DAIMお蔵出し:ケフィアP / “VOCAL-ENGINE”

  1. 声と楽器と音とノイズについて、ここしばらく考え込んでいる。
    ボーカロイド等は歌声合成ソフトという楽器の一種だが、その元はサンプリングされた声である。
    楽器は音楽を奏でるための器材だが、様々な音程が出せるよう工夫されたものもあれば、音が出れば良しとする場合もあって、もちろん声も含まれる。
    音とは空気の振動だが、キャラクターが明瞭に響くものもあれば、雑多な周波数が混在しているものや不可聴帯域のものもあって、もちろん各種楽器の音色も含まれる。
    ノイズとは不快な音だが、無響室に入ると自分の身体が発するノイズが聞こえてくる。
    人間の聴覚は、こういったノイズを無意識下でフィルタリングしているらしいと何かで読んだ気がする。
    音楽への衝動は、長い歳月を経て様式が整理され器材が進化しても、根っこは変わらないのだと思う。声があるかぎり歌う。音が出るかぎり奏でる。その気になれば、どんなノイズでさえも歌にすることができる。
    ボカロの声に魅了されるのも、フェラーリの走行音に官能を見出すのも、実は似たような話なのかもしれない。
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    ■music:ケフィアP
    ■illust:ゆかこ
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    Info

DAIMお蔵出し:くちばしP / “EX-GIRL”

  1.  初音ミクのオリジナル曲の歴史を語るとき、「メルト」によって「キャラソン」が「私とあなたの歌」に変化した、というのが一般的な意見である。しかし、ミクという仮想人格への自己言及から二人称的な誰かの物語へのシフトは、「メルト前メルト後」のようにデジタルに遷移したものではない。そのことを強く印象づけているのが、この作品である。
     曲の概要はニコニコ大百科に譲る。注目したいのは、タイトルの「EX」と歌詞の謎である。「EX」とは何だ?「自分に飽きた」のは、いったい誰なんだ?この独白を、初音ミクという「個人」、あるいは、どこかにいる多感な少女の心の動きと解釈することはたやすいが、両者を隔てるものは無に等しい。ここにいる彼女は、「細い裏路地」という日常空間から「この世の全て裏から眺め」ることができるのだから。そして彼女が獲得するのは、全ての視線と新たな世界である。
     「EX」とは、初音ミクと分かちがたい特別な存在、つまりニコ動を見ているあなた自身のことである。
     ※ただしおっさんを除く
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    ■music&illust:くちばし
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DAIMお蔵出し:ちえ / “フライングスタート”

  1.  この季節にふさわしい、せつなくもあざやかな高揚感につつまれてみよう。そして、なぜかを探ってみよう−こんな調子で語り始めると1年が過ぎてしまうので、できるだけ端的にまとめてみたい。
     まず、たった11秒、ピアノとベース、ドラムだけのイントロの豊かさに目を瞠る。そこからミクの声とフルートのような音色が加わって、ひらひらと舞い踊る。35秒あたりからは弦楽器のピチカートを交えつつタメをつくり、46秒からのサビで喜びを爆発させて、2番に続く間奏からは一気に畳み掛ける。
     このスピーディでトリッキーな構成に、いかにも春らしいキーワードを散りばめた歌詞が花を添える。曲を聴きながらじっくりと確かめて、メロディと言葉が織りなす響きとリズムを堪能してほしい。
     そしてやや後ろから描かれたミクのイラストは、翼のように両手を広げ彼方に翔んでいってしまいそうな彼女の一瞬を切り取っている。
     ざっと見渡しただけで、この密度である。まるでポップソングのお手本なのだが、おそらく楽曲制作や楽器演奏の経験があるほど驚きが増すだろう。これを聴いて自分も何かやってみようとそわそわし始めた方が、決して少なくないと想像するのだ。
     3分57秒。この余韻は、なにものにもかえられないきらめきである。
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    music:ちえ
    words:リョータイ
    illust:はらの
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DAIMお蔵出し:Treow(逆衝動P) / “Chaining Intention”

  1.  卵から孵ったばかりの雛鳥が最初に見たものを親と思い込む「刷り込み」という行動があるが、音楽はそのトリガーになりうるだろうか。ワタシは充分に有り得ると思っている。
     いや別に胎教の話をするつもりはない。音楽に対して主体的に行動するきっかけになる楽曲が、誰にでも必ずあるだろうということだ。
     そういうポテンシャルを持つ作品は、往々にしてブロードキャストされていない。例えば皆が見ているTVに独りそっぽを向いてPCを眺めているときに、前触れなく現れるものだ。ネットでそんな楽曲を発見して大きなショックを受け、血眼になって音楽情報を漁るようになったティーンエイジャー…ボカロネイティブあるいはネット音楽ネイティブが、今後どんな風景を見せてくれるのか、あるいはどんな人生を歩むのか、実は楽しみで仕方がないのである。
     てなことを、この作品とワタシ自身のトリガー楽曲を聴き比べながらぼんやりと考えている。
     「刷り込み」は中二病の感染源だよなあ。
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    music:Treow
    words:NaturaLe
    illust:花雀
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DAIMお蔵出し:OSTER project / “【初音ミク】恋スルVOC@LOID -テイクゼロ-【おまけ】”

  1.  2013年の今こそ、あえて取り上げる。
     いわゆるn次創作の端的な例であるパロディは、元ネタへの深い洞察とリスペクトとセンスが必要となる。さらに元ネタと密接な距離に位置するので、ハズすわけにはいかない。そのプレッシャーを想像するだけで胃が痛くなる、そういう種類の創作である。
     ボーカロイド…特に初音ミクのキャラクター性の成立過程において、極初期に制作され広く共有された「ハイレベルな2次創作」が影響していることは、あらためて強調しておきたい。実際、ミクがなぜ仕事を選ばないのか、なぜネギを持っているのか等を説明するには、年表を広げるしか無いのだ。
     さて、自身の曲を高度かつ徹底的にパロったこの作品によって、作者がミクにアホの子属性を付加した罪は重い。しかも作者は現在に至るまで懲りるどころか最前線から降りそうな気配もないので、始末に負えない。
     まったく、「セルフバカー」とはよく言ったものである。
    ********************
    ■music,lyrics:OSTER project
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    ※通常はレビュー曲の外部プレイヤーを配置するのですが、今回は原曲と、あたま@ニコニコさんによる素晴らしいProject Divaエディット動画をご紹介しておきます。

    Info

DAIMお蔵出し:kz(livetune) / “Tell Your World”

  1. ハジメテノオトが溶けて消え失せた世界の終わりで踊ろう
    どんな歌でも歌うから
    あふれ出す想いは歌に変えて
    おはよう、おはよう
    記憶の中の幻と陽炎の日々は昔々の今日
    オンディーヌ?ウンディーネ?
    深海へ沈むリアルな世界は明日も皆様他人事
    進化の過程の僕が贈るものは全て胡桃と緑のジュース
    未来と願いと奇跡の絵の具で猫という猫を虹色に!
    千の桜の雨が降る最果ての世界で一番のお姫様は
    アイとはなんぞと問われれば
    ここから連れ出してと
    十文字以内で答エル





    「覚悟をしててよね?」
    「教えてよ 君だけの世界」




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    ■music&lyrics:kz(livetune)
    ■movie:わかむらP,ファンタジスタ歌磨呂,TAKCOM
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DAIMお蔵出し:島白(よだれP) / “初音ミクが「ほしのこもりうた」歌いやがった【リローデッド】”

  1.  おっさんには新しい音楽なんて必要ないのさ勝手にやってればいいのさ。そう考えていた時期が自分にもありました。
     タイトルの通り、これは「2008年08月31日」に投稿されたものの再投稿である。あの24時間前後の異様な熱気と一体感による興奮で文字通りモニタに齧りついていたことを、夏の終わりの暑さとともによく覚えている。
     この曲は、あの日に投稿された作品群のなかでも異質であった。モチーフ・メロディ・歌詞・アレンジのアクロバティックとさえ思える組合せを、可愛らしい合成音声が唄う。一聴してすぐに自分が蓄積してきた音楽感、いや、独りよがりのまま更新されなかった知識と嗜好が、一気に崩壊した。
     あとで調べたら、どうやらこれは「ドラムンベース」と呼ばれるジャンルの一種らしいと分かった。ではジャングルと何が違うのだろう。調べるなら手がかりはそのへんか。こうして、音楽をめぐる探検を再開したのである。
    ********************
    ■music&lyrics:島白(よだれP)
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    ニコニコ動画

    この動画は投稿者により非公開に設定されています。

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DAIMお蔵出し:ぱきら / “Ribbon~脱・女のコ宣言”

  1.  隠れた名曲である(と言っても殿堂入りしている)「涙にさよなら」の作者・ぱきらさんの、もっと隠れてるけど個人的に忘れられない作品。
     一言で表すと、メロディ、アレンジ、(初音ミクに寄せているが)自称的な歌詞のどれもが、1980年代後半〜1990年代初期に隆盛を極めた、典型的な女性アイドルポップスである。
     こういったテイストが、2000年代後半にインディペンデントで聴けるとは、さすがに予想していなかった。我らがバーチャルアイドルが唄う音楽は実にバラエティに富んでいるけど、それらがアイドルポップスとして機能しているなら、たまにはこういうのもいかがでしょう?
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    ■music&lyrics:ぱきら
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    ※参考:Qlair「思い出のアルバム」

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DAIMお蔵出し:曲者P / “10月の雨”

  1.  おっさんどもがボカロにハマる理由を考えたことがあるだろうか?キャラに魅せられた奴、世界を変える可能性を感じてる奴もいるが、ワタシは「音楽を取り戻すことができた」からに尽きる。
     ワタシはフォークからMTVに至るまで、TVやラジオで流れる音楽を聴いてきた。やがて音楽が「産業として」成熟しJ-POPだらけになって、ワタシが親しんだ音楽は表から消えた。いよいよ新譜購入を止めようと考えてたのが2007年の夏。マジ。
     この曲はそういうおっさんの琴線に触れた。シンセ主体のAOR的なミディアムポップス…求めていた音楽を見つけた。これが新作で聴けて見渡せば他にも良曲がある。ここは宝の山だ!そう感激したのが2007年の暮れ。マジ。
     おっさんどものこんな音楽体験の「再生」が、たぶん今でも同時多発している。これで理解できないなら、ホール&オーツのKiss on My Listを引っ張り出してこい。話はそれからだ。
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    ■music&lyrics:曲者P
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