2011/06/21

日本のアイドルポップス史にボーカロイドを位置づける試み:解体

…うーむ。日が空いてしまったのは、酒を飲み歩いてただけが原因じゃないんだよ。誰だって、好きなもんの解体現場なんて見たくないでしょ?まあしかし、手をつけてしまった以上は避けては通れんからなあ。

本題。前回までで、ボーカロイドにおける幾つかの要素は、既にアイドルポップス黄金時代で試みられていたことを示しました。今回は、それがいかにして解体され、地下に潜ったかを見ていきます。


おニャン子クラブの寿命は、いまから考えると信じられませんが、たったの2年半です。その前後に各レコード会社で生産されたアイドルポップス群は、莫大な数です。が、ちょっと不思議なことがあります。皆さんの家庭に、この時代のアイドルポップスのアナログレコードやCDが、どのくらい残ってますか?そもそもレコードなんかないというケースがほとんどでしょうが、実はCDすら、あまり残っていない気がします。この時代の音楽は、消費財のひとつとして文字通り消えてしまいました。あれだけ人員と金銭を投入した作品だったにも関わらず、です。なぜか。以下に理由を述べます。が、辛い事実も含みます。

(特に女性)アイドルとは一種の神秘性を持たねばならない、つまり、世俗とは切り離された存在でなければいけません。逆に言えば、スキャンダルが発覚した瞬間に、アイドルとしての命は亡くなったも同然、闇に葬り去られるしかありませんでした。例えば、高部知子のベッドイン&タバコ写真の流出、おニャン子クラブの会員番号の欠番等…。これもいまでは考えられませんが、この時代のアイドルは、ほんのわずかの隙も見せてはいけませんでした。このアイドルにとって必然であるはずの「神秘性」を、結果として完璧に破壊してしまった事例が2つあります。

ひとつは、岡田有希子の自殺。当時のトップアイドルが投身自殺し、その痛ましい姿が(白黒ですが)写真週刊誌に暴露されてしまった。思い出すといまでも胸が締め付けられますが、アイドルもひとりの人間であり、恋もすれば悩みもする、最終的には死んでしまうことすらあるという、極めて当たり前の事実を世間に突きつけました。あの写真は、まるで彼女の叫びのようでした。合掌…

…先を進みましょう。もうひとつは、宮沢りえのヌード写真集「Santa Fe」の発売。まず彼女の曲を聴いてみましょう。
宮沢りえ「MOON SHOOTER」
…いかがでしょう?アルバム「Chepop」からの1曲ですが、確か全て海外ミュージシャンによる演奏+海外スタジオによるマスタリングだったはずです。ぜひヘッドホンで聴いて、音のキレをお楽しみください。アイドルポップス黄金時代の「楽曲を作り込む」アプローチは、この作品でひとつのピークを迎えました。

そのトップアイドルが自分の意志でヌードになった(正確には敏腕マネージャーであった母親の一声があったと聞きますが)。そして、当時あらゆるヌード写真でタブー視されていた陰毛を見せた。これは、アイドルが聖なる存在などではなく実は単なる慰みものとして消費されていくに過ぎなかったことへの、彼女からの抵抗のようでした。

この2つ、すなわちアイドルが自ら死とセックスを見せつけたという事実は、決定的でした。皆が夢から醒めて、音楽も一緒に捨ててしまった。もはや耳に残るのは、虚しい声の抜け殻だけです。時代はバブル前後の退廃的な空気が漂っていました。そこに登場するのは、解体者としての、フリッパーズ・ギター(小沢健二+小山田圭吾)、小室哲哉、小西康陽等です。事例を見てみましょう。
渡辺満里奈「大好きなシャツ(1990旅行作戦)」
作詞・作曲・編曲:COUBLE K'O' CORPORATION=フリッパーズ・ギター。非常に洗練されたフレンチポップスに聴こえます。超級のレコードコレクターでもある彼らによって、そのように仕組まれています。渡辺満里奈はいまだに大ファンなので、こういう文脈で語るのは気がひけるんですが…。

次を見てみましょう。
渡辺美里「My Revolution」
作詞:川村真澄、作曲:小室哲哉、編曲:大村雅朗。渡辺美里はアイドルじゃないって?すみません先に謝っておきます。が、これ以上分かりやすいサンプルを思いつかなかったもので。注目すべきはメロディライン。故大村雅朗の巧みなアレンジで薄まってはいますが、いわゆるTKサウンドそのものです。小室哲哉については多くを知りませんが、この時期以降に仕事をほとんど断らず、文字通り全てをTKサウンド一色に染め上げてしまったのは、彼の罪のひとつでしょう。

さらにもうひとつ。極めつけの例です。
観月ありさ「Too Shy Shy Boy! (The Readymade Catchy Mix)」
原曲の作詞・作曲は小室哲哉。それを小西康陽がリミックスして結果としてTKサウンドを中和してしまったという、悪い冗談のような作品です。音に注意してみると、オケの作り込みはきれいさっぱりなくなり、サンプラーを駆使しているのが分かります。ここにおいて遂に、アイドルポップスの黄金時代は幕をおろしました。

…少々長くなったのと、話題が話題だけに気が重くなったので、ここで一旦切ります。以下、宿題としていくつか作品をあげておきます。ボーカロイドを含む、現在のアイドルのあり方に連なるミッシングリンクです。
島田奈美「Sunshower (Larry Levan Remix)」
東京パフォーマンスドール「CATCH!!」

金月真美(藤崎詩織)「ときめきメモリアル~forever with you~OP『ときめき』」

KOTOKO「さくらんぼキッス ~爆発だも~ん~」

…あの、蛇足です。蛇足ですけどね。「夕やけニャンニャン」の放送終了日って1987年8月31日なんですよ。単なる偶然ですけどね。きっと。