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2011/06/27

日本のアイドルポップス史にボーカロイドを位置づける試み:爆発

さすがに長く引っ張りすぎたので、もう強引にまとめます。いままでの記事を読んでない人は、ここから読んでもらっても構いません。

前回で軽くスルーしましたが、SPEED、安室奈美恵、ハロプロや、AKB48等については、ワタシ自身が全然知らないので触れません。なんで聴いてないかと問われれば、彼女たちは、かつてのアイドルポップス黄金時代と比べて、1つだけ違うところがあるためです。それは、自己主張。アイドルという浮世離れした虚像が破壊された後、そのポジションは実体を持った人間とJ-POPによって埋め合わされましたが、それは己を持つがゆえに、世俗からは切り離すことができません。送り手側も、もはやその事実を隠しようがないので、致命的なスキャンダルすら容認しました。ハロプロがスキャンダルの連続でほとんど自滅に近い状態に陥ったのは、徹底的に俗っぽかった、言い換えれば、彼女たちは「どっかそのへんにいるおねえちゃんの集合体に過ぎなかった」からです。


さて以上の状況を踏まえ、2007年夏から起こった、ボーカロイド(≒初音ミク)による「音楽の爆発現象」を見てみましょう。ワタシには、アイドルポップスが備えるべき要素がほとんど全て詰まっているように見えます。具体的に列挙すると、

  • 何でも片っ端から唄う。音楽に対して貪欲である。
  • ある種の神秘性を備える。それは実体をともなわなくても良い。
  • プロデュース(=「P」の語源)の作り込みによって、どのような世界も描くことができる。また、それを抵抗なく受け入れることができる。
  • 上記を達成するために、新しい技術を積極的に取り入れる。
  • 置かれた状況や個人の嗜好に合わせ、偏在することを厭わない。
等です。では何が違うのか。話は簡単です。以前は、ごく一部の人間しかアイドルをプロデュースできなかった。それを、パーソナルコンピューター上で、不特定多数の個人が実現できるようになった。この1点に尽きます。しかも、プロデュースする対象は、あらかじめ空虚なものとして用意されているので、アイドルとしては理想的です。ぶっちゃけて言えば、一部の金持ちのぼっちゃん嬢ちゃんしか買ってもらえなかった舶来の高価な青い目のセルロイド人形が、誰でも買えるリカちゃん人形に変わって、みんな勝手にお人形遊びをして妄想をふくらませられるようになった、それだけのことです。

しかし、ツールが揃ったところで、不特定多数の人間に充分な音楽的素養がなくては、プロデュースなど真似事でもできません。ボーカロイドによる「音楽の爆発現象」を可能にした背景は、そういう素質を持った方々がフタを開けてみたら驚くほどたくさんいた、という事実にあります。日本の教育プログラムが優れている一面もあるでしょうが、街には当たり前のようにカラオケ屋があり、家に帰れば楽器とパソコンが転がっている、その「豊かさ」を認識しておく必要があります。コンピューターミュージック=DTMは、YMOに影響されたおっさんどもがメインストリーマーでした。また、現在の10〜30歳台の方々の親御さんの世代は、フォーク・ロック・ニューミュージック・小室哲哉(!)等に影響され、一度は楽器を触ったことがあるはずです。そして自分たちの子供を、音楽教室に通わせたりしていた。そういう楽器、もっと言ってしまうとキーボードに抵抗なく触れる、若い方々が多かった(もちろん、この世代はビデオゲーム=コンピューターにも日常的に慣れ親しんでいる)。戦後日本が土地を耕し、ヤマハが何十年にも渡ってコツコツと撒いてきた種が、ボーカロイドをきっかけにして一気に開花した、と捉えてもよいでしょう。

ここで、「ボーカロイドは新しいツールだけど、音楽的な新しさは結局ないのではないか」という疑問が浮上します。総合的にみれば、その命題は「現時点では」否定できません。ボーカロイドで作られた音楽は、ほとんどすべて既存の音楽体系のどこかに属している。これは、音楽に詳しければ詳しいほど実感できると思います。作り手も受け手も、「バーチャルアイドルのプロデュース」という行為を、シミュレーションあるいはパロディとして、楽しんでいるようなところがある。しかし、いかに素人集団と言えど、これだけ多数で並行作業すれば、必ず新しいものが生まれてくるはずです。猿を無限に並べてタイプライターを永遠に打たせると、いつかはシェークスピアが書けるという話と似ています。ワタシが期待するのはそこです。

だから、聴き続けるのです。
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