2015/08/04

過剰で執拗で容赦のないアニメ〜響け!ユーフォニアム(10:色彩設計について)

言いたいことはだいたい書いてしまったのでこのシリーズも終わりに近づいてきた。先日勢い余って宇治まで行ってあちこち歩き回ってきたけど、その感想は次回にまとめてそれで一段落としよう。さて今回は色彩設計、平たく言うと色づかいの話。

アニメ作品がなぜアニメと呼ばれるのかというのは作品にアニメ的な要素が含まれるからだが、そのひとつに独特あるいは突飛な色彩が挙げられるのは異論のないところだと思う。アニメ作品内では、特に髪と瞳で顕著だが、日本人というか人類ばなれした色をまとったキャラが闊歩している。一方、リアルでも髪を染めたりカラーコンタクトレンズを使えば明るいピンクや緑などにすることは可能であるが、じゃあそれで日常生活を送れるかというとなかなかに難しいのは、コスプレを楽しむ人たちの多くが地毛ではなくウィッグを常用している事実からも伺える(レイヤーさんは様々なキャラに扮するのでウィッグの方が都合がいいというのもありそうだけど)。まあ要するにアニメ的ファンタジーをそれと分からせる仕掛けのひとつとして、多くの作品で様々な色彩が意図的に用いられている。

その色彩だが、最近のアニメ制作では色彩設計といった名目の担当者が置かれることが当たり前になった。実際の作業風景を知らないので想像だけで言うしかないのだが、この仕事は昔から受け継がれている動画ごと・場面ごとの色指定作業に加えて、作品を通した色調の統一も行っているんじゃないかと想像している。各社ともデジタル作画に移行して久しいが、塗料の種類や調合比率にとらわれずRGB(場合によってはCMYKかも知れないが)でダイレクトに指定できるぶん、あらかじめ全体を見渡してその値を決めておかなくては作品がとっ散らかってしまうのは目に見えている。逆に言えば、色彩設計はデジタル環境だからこそ注目度・重要度が上がった職能と言えるかもしれない。なにごともチューニングは大切なのだ。

「ユーフォ」のスタッフに色彩設計は特にクレジットされていないと記憶しているが(おそらく美術さんが兼任している?)、いまさら指摘するまでもなく慎重に色を選んでいるのが分かる。まず髪の色だが、吹奏楽部員全員を一望できるカットというのが実は少ない(音楽室だと画角の関係で映らない生徒がいる)ので、ネタバレではあるが最終回のEDから引用してみた。黒が青と緑に、茶が赤と黄(金)方向に幅を持たせているのが分かるが、総じて地味で抑え気味な色調で統一されている。リアリティで言えばアニメと実写の中間から少しアニメ寄りくらいだろうか。まあピンクの髪のキャラは今後2期があったとしても出てこなさそうである。


そして瞳の塗りを見ると、キャラごとにそれぞれ明確かつ細かく、ビビッドな色づかいをいとわずに指定されている。場面ごとにあまり色が変わったりしないところをみると、瞳はヘアアクセサリや持っている小物などとともに演出装置というよりキャラの性格づけのための場所ということのようだ。吹奏楽部員その他の大量の登場人物全てに個別の指定を行うその「執拗さ」には驚き半分呆れ半分、指定する方も塗る方もよく混乱しないものである…このあたりは「アニメは工業製品である」というワタシの持論に繋がる話でもあるのだが、今回はこれ以上触れない。とにかく、「ユーフォ」を全体として眺めた場合、「アニメ的な色彩」は主にキャラの瞳で表現されていると考えてよい。

個人的には、この「全体的にはリアル志向で必然的に地味にせざるを得ないなかでキャラの個性をどうデザインするか」をほんのわずかな色指定で表現していく仕事ぶりに、実は強くシンパシーを感じている。言われなきゃ分からない職人技みたいなものと表現すれば分かってもらえるだろうか。こういうきめ細かさの積み重ねが作品の密度を高めているのは言うまでもないが、2015年のTVアニメ大量生産時代においてこの職人技の塊みたいな作品が実際にTVシリーズとして放映されるところまで行ってしまったという「事件」は、もっと知られて然るべきだとつくづく思う。