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2024/07/04

「響け!ユーフォニアム3」感想以上深読み未満:最終回 #ユーフォ3期

2024年4月から数えて3ヶ月、きっちりスケジュール通りに全十三回を放送して、ついにこの足掛け9年にわたる物語が終わりを迎えるときが来ました。

これだけの時間を一緒に過ごした分、どうしても自分語りしたくなるんですが、それは後回しにします。とにかくこの、ユーフォシリーズという大河青春アニメの終幕として、これ以上ないほど潔い最終回だったと思います。

この最終回のサブタイトルは「つながるメロディ」ですが、ワタシは「きたうじクロニクル」または「くみこクロニクル」でもあったよなあ、と考えています。ユーフォ3には劇中の時間経過のほかに、リアルの我々が経験してきたここ数年の思いが重なっていると強く感じられるのは、前回述べた通りです。そのあたりを含めつつ、お話を追っていきましょう。




五日前、という文字から始まる今回が、TVシリーズ1期最終回を踏襲しつつ、全国大会での演奏という3年間の集大成に向かっていく構成になっているのは、「クロニクル」の分かりやすい例でしょうか。桜の木の植樹、卒部会に向けた写真撮影(真由ちゃんの屈託のない声が戻って、つばめちゃんの「はい、ティンパニー」の掛け声がかわいい)、全体的にやわらかな空気を感じます。そういえばコンタックスT2の中古価格を調べてますけど高止まりのままですねえ…



話を戻します。四日前。いつもの練習風景。三日前。久美子が吹く「響け!ユーフォニアム」が流れるなか、りりりん先輩こと梨々花ちゃんが後輩にリードの糸巻きを教えています。かつて鎧塚みぞれがそうしたように。「つながる」というキーワードが、今回はこうして随所に現れます。

演奏する久美子のスペースに集まる真由ちゃんと、かなぴーこと久石奏。久美子はもうふたりに何の気を使うこともなく、ひとりのユーフォニアム奏者として、田中あすかから託された「メロディ」を同じユーフォのふたりとシェアすることを自然に選びます。手書きノートの楽譜を見せたとき真由ちゃんが言った「素敵なタイトルだね」に「でしょ」と相槌を打つ久美子の一瞬のほほえみが抜群に良いですし、例の窓を力任せにこじ開ける奏も実に表情豊かで愉快です。久美子は奏にこの曲を大事に吹いていってほしい、つないでいってほしいと願い、奏は即答で快諾します。この和やかさがもし真由ちゃん転校直後からだったら、久美子部長はもっと楽ができたでしょうけど、真由ちゃんの真の実力を引き出せたのは久美子との葛藤があればこそなので、もはや結果論にしか過ぎません…




ここであえて言っておきます。何をどうやっても尺が足りなかったのは理解しますけど、この流れでユーフォ三重奏「響け!ユーフォニアム」が聴きたかったです先輩!



本題に戻ります。二日前。久美子と麗奈は大吉山に登って「愛を見つけた場所」を吹きます(第五回のあがた祭り回では地下に潜ってたので、ふたりで山に登ったのは1年以上ぶりでしょうか)ここでのやり取りが、久美子の一人称視点を交えて描かれていることに注意してください。それと黒沢ともよさんの妙な笑い声もぜひ。

なお二人の楽器がこれまでと違うと指摘されているのを見かけましたけど、ワタシは「久美子はレイナンチからユーフォを借りて、麗奈は万が一でも本番用を壊してはいけないので予備を持ってきた」と解釈しました。リード楽器の奏者が常に複数のリードをキープしていて、ここぞというときには取っておきのを使うというアレです。




一瞬だけ映る墓地。供えられているのはイタリアンホワイトでしょうか。誰が供えたかは考えないでおきます。

一日前。名古屋入りした北宇治高校吹奏楽部の夕食風景。ミドリ、カレー大好き!というお決まりのセリフからメンバー全員の掛け声につながるノリの良さと、真由ちゃんのリラックスした屈託のない笑顔が本当に良くてねえ…もうこの時点でおじさん橋本先生みたいに泣いちゃったよ。





その日。

TVシリーズ1期のサウンドトラックTr.18「伝えたい想い」が流れるなか、本番の演奏前のエピソードが語られます。演奏順が3番なので朝の風景でしょうかね。晴香部長と香織先輩が来て田中あすかが来ないのは実にそれらしくて良いです。まあ、あすかのことなので、大会後のOB/OG飲み会にはちゃっかり参加してそうですが…それと忘れちゃいけません、清々しい空気を描いた背景はもちろん、楽器運搬用?のトラックの緻密なディテールも密かな見どころではあります。こういうところまでしっかり描くのが、2020年代的とも言えます。


久美子に佳穂ちゃんから渡される、チェキ、でいいんでしょうかね?ユーフォパートの4人、もちろん真由ちゃんも一緒に写っているのがポイントです。夏服なので撮影したのは関西大会直後でしょうかね…その他、サリーちゃんちの御守を渡したり鈴木ズが俳句?を詠んだり、いつもの低音パートらしくリラックスできています。それにしても北宇治の演奏を支えるダブルエースが先輩なので、佳穂ちゃんは今後のプレッシャーが大変なことになると思います。まあ奏がうまいことフォローしてくれると思いますが。




カメラが変わってコントラバス。サファイア川島のアイデンティティである敬語が求くんに対してだけは崩れる、それだけで二人を語るというのが、たまらないです。

奏の「北宇治の100%を見せて」というリクエスト、チューバパートの"スキンシップトレーニング"を見た久美子と麗奈のハグ…「麗奈は誰にも負けない」という言葉は、掛け値なしの本音でしょう。





滝先生に先導された移動シーン、鈴木さっちゃんのチューバの運び方が実に細かくて良いです。この精度を求めたら、そりゃあ中途半端に演奏シーンは描けなくなっちゃいますよね。こういったわずかなディテール描写の積み重ねこそ、ユーフォがユーフォである、京アニが京アニであることの証明なので。

センチュリーホール第一リハーサル室。劇中では2年前、晴香部長とあすか副部長が立った場所に、久美子部長とドラムメジャーの麗奈が立ちます。ここでついに、2017年の北宇治高校吹奏楽部の全メンバーが紹介されます。それも誓いのフィナーレで導入された縦画面で。北宇治高校吹奏楽部には一眼レフらしきしっかりしたカメラを持った記録係が存在するのはTVシリーズ1期で描かれましたが、久美子2年生時代以降は、皆が個人のスマートフォンでフランクに撮った動画も記録として残すようにしたのかもしれません。とにかく、この「16:9の構図を縦3つに分割して次々にメンバーを紹介していく」手法には、最後の最後であっと言わされました…なおこのステージ裏や第一リハーサル室には、何年か前に実際に見学したことがありまして、貴重な機会をいただいたことにあらためて感謝します。



(2018/04/07に名古屋のセンチュリーホールで撮影)



さてここで、通称フカヨミ団の出番です。

A編成55名をメンバー紹介の順番に合わせてカウントしたのが下図です。関西大会でチューバを増やしてユーフォニアムを減らしたのはご存知の通りですが、ワタシが画面などを見てカウントした、トランペットとパーカッションの人数が関西大会時から微妙に合わなくて、混乱しています…関西大会から全国まで時間があったので、再び思い切って編成を変えたのかもしれませんが。それとフルートパートに2年生がいないというのも、かなりショッキングではあります(同属?のピッコロが2年ではありますけど)なお全国大会A編成の各学年の人数は、3年が23名、2年が26名、1年が6名ですが、"チームもなか"の40数名を加えて考えると、2017年度の北宇治高校吹奏楽部の層の厚さは、ワタシが指摘するまでもありません。





再び話を本編に戻します。ステージ上の光の演出と撮影が、TVシリーズ1期・2期で目立った、レンズ端の色収差が描かれ空間のオーブが映り込む通称"ダメレンズ"手法を引用していることに注意してください。課題曲をあんな形でカットしたのは、最後の最後まで我々を楽しませてくれた、あのふたりに免じて許しましょう(笑)

自由曲「一年の歌 〜吹奏楽のための」が、ついに通しで演奏されます。放送直後にデータ購入しましたが、たったの6分しかないんですね。その間に、各楽器の見せ場をこれでもかと盛り込んだ、聴き応え十分の難曲であることを、まずは意識してください。


北宇治のストロングポイントはクラリネットで、それを最初に聴かせたいという理由で選ばれたこの楽曲ですが、各パートのソリスト以外にも、高いレベルの演奏力が求められるのは、注意深く見て聴けば理解できます(流れ続けるグランドハープの音色、小日向夢ちゃんのカット、アウトロのフルートソロなど)そして「夏」を象徴した第二楽章から「秋」に移る第三楽章、たっぷりと余韻を残してからのトランペットとユーフォニアムのソリ、ここをマリンバがフォローしているカットで、ワタシは号泣してしまいました。釜屋つばめちゃんは、麗奈と真由ちゃんのほうが「息」を合わせやすいと感じたから、オーディションで確信をもって挙手したんでしょう…





もうこのあたりから、極めて精度の高い演奏カットと過去の回想が織り混ざって、言葉に詰まってしまいます…過去のシリーズから引用されたカットが久美子を中心とした3年間の積み重ねという意味だけなら、時系列がシャッフルされている理由がうまく説明できません。これは全くの個人的な思いだけで言うんですけども、石原監督は「響け!ユーフォニアム」という作品の製作に関わった全てのスタッフが手がけたカットから、ここぞという場面を選りすぐって、この演奏シーンに託したんじゃないんでしょうか。なので、クライマックスで久石奏がつぶやいた言葉は、石原監督や制作スタッフの皆さんだけが知っている、関わった全ての皆さんへ宛てた秘密のメッセージなのかもしれません。




演奏を終えて成績発表と表彰式。ここの劇伴がむちゃくちゃ泣かせるのでよく注意してください。





「もう何も悔いは無い」という久美子の言葉の先に待っていたのは…




我々は久美子部長の1年間を、いや、吹奏楽に打ち込む黄前久美子というひとりの女子高生の3年間を通して、努力が報われることの尊さを心から喜べるのです。悔し涙を流して走った、後輩の苦悩を思って走った、部長としての決意を抱えて走った、そんな彼女を間近に見たからこそ、我がことのように喜べるのです。



「死ぬほどうれしい!」という麗奈の言葉を見届けることができた我々は、誰がなんと言おうと、もう北宇治の人間なのです。





なお、エントロールで描かれるの皆の姿がまた奮ってましてねえ…特に麗奈のかあちゃんと、初代チームもなか勢揃いに、もう涙が枯れ果てる勢いで…



さて。

第一回で流れた「ディスコ・キッド」が彩るエピローグ、通称「ディスコ・キッドの謎」について話し始める前に、𝕏でこんなポストが流れてきて驚いたことを記しておきます。


前回の宇治市文化センター大ホールでの真由ちゃんとのオーディションで「勝負に勝って試合に負けた」久美子は、あの舞台での堂々たる振る舞いによって"組織の価値観やアイデンティティの理想像"を示した「北宇治高校吹奏楽部の重要なリーダー」になったと言えます。彼女が当初掲げた「皆で上手くなる」という目標は、久美子自身の身体を張った行動と宣言によって、部の価値観とアイデンティティとして示され共有されたわけです。私見ですが、真由ちゃんに敗れ麗奈との約束を果たせない、「特別ではなかった自分」を再確認したことによって、久美子はリーダーとして大きく飛躍することができたのだと思います。

従って、全国大会を描いたこの最終回は、久美子の自信と確信に満ち溢れたものになりました。その姿は、「北宇治高校吹奏楽部を悲願の全国金賞に導いた伝説の部長」=上記の引用で言うところの"ゴースト"として、2018年以降も強い影響を残し続けているのではないでしょうか。

その"ゴースト"が再び北宇治高校吹奏楽部を指導する。考えてみれば、久美子が1年生指導係を担当したあたりから、彼女の長所である耳の良さや冷静な観察眼、アドバイスの的確さなどの"適性"を、滝先生や美知恵先生は見抜いていたように思います。その足取りは堂々としていて、薄いピンクとブルーのコーディネートは、「リズと青い鳥」のテーマカラーでもあります。抱えたファイルに差してあるピンにはイタリアンホワイトがあしらわれているんで、秀一との仲はたぶんそういうことなんでしょう。まあ、音楽室のドアを開けるのが上手くいかず、とっ散らかっちゃったりしてるので、まだまだ若いわけですけども。

そして忘れてはいけません。背景に映る、くたびれたチューバくん、変更された指定ジャージ、植樹後に成長して花を咲かせた桜、コンクリートで修繕されて姿を変えた通称久美子ベンチの風景、台風で倒壊した後に修復された宇治神社の鳥居、1本だけになった煙突、複線化されて宇治川の上で行き違うJR奈良線、そして…立てかけられたアクリル板と、ゴミ箱に捨てられたマスク。これらは、我々がここ数年で日常的に見慣れてしまったものです。

ユーフォ3は2017年度の物語であるというのは何度も言及しました。そこからカウントすると、このシーンは実は2024年度、つまり今、ということになります。

(教員免許は四年生大学卒業でも取得できるというのは知っていますが、この妄想をしていたとき、京都にある学校の音楽教育専門課程が6年のカリキュラムを展開しているというのを知って、少しだけ考慮しました)


最初の原作小説が書かれ、TVシリーズ1期が制作された時点で、誰もこんな計算はしていないはずです。運命というのは本当に残酷だけど、ほんの一瞬、少しだけ気まぐれに、ハッピーエンドを味合わせてくれる、物語はそれをほんの少しだけ手助けしてくれる、そんなものなのかもしれません。

(久美子先生の机の上に飾られているのは、"北宇治カルテット"を真由ちゃんが撮影したアナログフィルムカメラによる写真だったというオチが素晴らしいです)


さて、この3ヶ月の執筆の締めに、少しだけ、おっさんのうざい自分語りにお付き合いください。

9年前、メンタルを病んで毎日のように突っ伏して部屋の天井を眺めながら過ごしていた時期に、「おまえはこのアニメを見ろ、見るべきだ」とすすめてくれた友人知人がいなければ、ワタシは今このようになっていません。その声に押されて(以前からの習慣で何となく録画だけしていた)TV版1期の第八回まで一気に見て、今の京アニ、今のアニメは、いったい何をやってるんだと大きな衝撃を受けたこと、それからのめり込むようにTVシリーズの続編や映画を追いかけ、さらには各種イベント、そして舞台となった宇治まで何度か足を運んで、結果、新しくかげがえのない友人知人を得たことは、この歳になってあらためて思いますけど、本当に得がたい経験として、この先も忘れることができないでしょう。この9年間という時間に、公私ともさまざまな出来事があふれていて切り離すことができない、それくらい人生と深く結びついてしまったアニメというのは、10代の頃に巡り合ったいくつかの作品以来かもしれません。原作小説を執筆された武田綾乃先生、石原監督をはじめ京都アニメーションの皆さん、そのほか制作に関わったり協力された全ての方々に、深くお礼を申し上げます。



そう遠くないうちに、ちょっとしたお願いをするため宇治のサリーちゃんの実家もとい許波多神社へ再び訪れて、先日は社務所が閉まってて買えなかった御守を家族のぶんだけ買おうと思います。そしてまた、久美子をはじめ北宇治高校吹奏楽部の連中が駆け抜けた姿を思い浮かべつつ、宇治の街、そして京都を散策したいと思います。遠くから聞こえてくるのは、街の喧騒でしょうか、宇治川の流れる音でしょうか、それともユーフォニアムの音色でしょうか。そんな、わくわくする高揚感がいつまでも続くことを願って、この連載めいた記事を終えることにします。お付き合いいただき、本当にありがとうございました。


(2024/06/02に許波多神社で撮影)


(2017/06/05の夕方に宇治川の右岸で撮影)





……

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…もう今だから言っちゃいますけど、2017年度の北宇治高校吹奏楽部が少なくとも全国まで行くというのは、OPで映り込む各メンバーの左肩の赤いリボン、ワタシは「劇場版機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙のガンキャノンの機体番号」ってずーっと言ってますけど、で分かっていたことなんですけどね。やっぱりユーフォ3は劇場の音響で浴びたいので3部作にして映画にしませんか京アニさん。締めは「めぐりあい名古屋」とかいうタイトルで(佳穂ちゃんならきっと笑ってくれるはず)



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