V2版の初音ミクが発売されたのは約6年前。既に語られている通り、そのキャラクターデザインは、当初から「微妙に人間を外したイメージ」を意図的に与えられている。そして、全体的には誰にでもすぐそれと分かる記号性をまとっているのにも関わらずディテールはもっさりしていて、語弊をおそれずに言えば、微妙にダサい。2007年の視点で見てもそれは変わらなかったはずだが、この「強烈な記号性と細部のダサさ」ゆえに多様な解釈を受け入れることが可能になり、「ぼくがかんがえたさいきょうにかわいいはつねみく」を生み出す土壌となった(ただし副産物としていくつかのクリーチャーめいたものも生まれてしまったのだが…)。ビギナーズラックと言ってしまえばそれまでだが、時代のアイコン…アイドルとしての機能は見事に果たしたと思う。
ミクさんV3のキービジュアルは、V2のリファインとされている。比較してみると、V2が備えていた記号性を注意深く踏襲しながら各部のディテールを整理して情報を取捨選択してあり、シンプルですっきりとした、気持ちのよいラインでまとめてある。この「同じなのに違って見える」というのは、実はものすごく大変な仕事である。そして何より重要なのは、表情がより現実の人間に近づいたことである。
若い女性アイドルのファンを長くやっていると、彼女たちの顔の変化に驚くことがある。整形や美容手術の話ではなく、ある日突然、表情に輝きが増すタイミングがやってくるのだ。ワタシが勝手にそう感じるだけかもしれないし、女性は注目される・恋をすることによって女性ホルモンの分泌が活発になるから的な学説が探せば出てくるかもしれないが、とにかくそのタイミングが来ると、驚くほどの速さで魅力が増していく。
ミクさんV3は、一目でV2と同じ顔だと分かるのに、そういう表情をしている。凛として涼しげで、ほんのわずかな笑みから知的な謙虚さと確かな自信が透けて見える。小さい女の子にとっては憧れのおねえさん、我々おっさんからすると理想の娘。まるで『初音ミクという自律的なバーチャルアイドルが「実在」していて、6年間かけて成長したらどんな姿になるか』を仮定して描かれたようにさえ思えた。
ヤマトやガンダムのアップデート手法を引き合いに出すまでもないが、この「もし現実世界に存在していたら」という古典SF的なアプローチは、当初のCVシリーズ(と追従した他社による一部のボーカロイドキャラクター)のコンセプト…「最初から架空に決まってる」バーチャル・シンガーからの一大転換であり、今後を考える上で示唆に富むものであろう。それは「マジカルミライ」と「ミクミクメイクミク」の、いわゆるフラットデザインでまとめられたサイトからも読み取ることができる。ミクさんV3のブラウスがV2のメタリックグレーからオフホワイトになったのも、上記のサイトを並べてみれば「色彩を時代感覚に合わせてアップデートした結果」として理解されよう。
初音ミクがこの世に現れてもうすぐ6年になるが、「既に現実化した」バーチャル・シンガーはどこへ行くのだろう。彼女は相変わらず虚なる器のままだが、その輝きと鋭さは、まるでアイドルとしての自我を得たかのように増している。我々がV3のパッケージを手にするときに問われるのは、彼女そのものよりむしろ、我々自身がこの6年でどれだけ成長できたのか、なのかもしれない。