ホテルをチェックアウトしてタクシーを呼んでもらったら、昨日の通称ボブとばったり。「日本から来てこれから帰る」って言ったら、さすがに驚いていた。で、感想を求められたので「すげー興奮した」って答えてお別れ。
問題は、そのタクシー。仏頂面したヒスパニック系のいかついおっちゃんのドライバーが、ニコリともせず「行き先はどこだ」と聞いてくる。「行き先はロサンゼルス国際空港、エル・エー・エックス。飛行機はジャパンエアライン。ジェイ・エイ・エル」と伝えたら、返事もなく走りだした。車内はクルマの走行音だけで、気まずい空気が流れる。こりゃあ最後にヤバいの引いちゃったかもと思いおっちゃんを観察してみたら、
右手の人差し指がない。
空港までの時間がやたらと長く感じるなか、大事な用件を伝えるのをすっかり忘れていたことを思い出していた。もうチャンスはほとんど残されていないので、思い切ってその話をしてみようと決心した。
空港に到着後、支払いを済ませ、荷物を荷台から下ろしたところで、自分の拙い英語で話しかけてみた。
「今回の地震でのアメリカの支援に、日本人はみんな感謝している。ありがとう」
すると仏頂面したおっちゃんが、表情をひとつも崩さず無言で、人差し指のない右手をすっと差し出した。がっちりと握手。おっちゃんの掌は、分厚くて暖かかった。