さて今回は、その高密度な最終回をワタシの力でどこまで分解して言葉にできるかというのに挑戦したい(当然ネタバレ多数につき注意)。なお画面キャプチャは極力入れません。動いているのを直接見てほしいので。
アバン
- 1枚絵のタイトルのみでOP抜き。この手法は物語が佳境に入っていることを示す、TVアニメでよく使われるもの。
- 間を入れず久美子の起床から登校までの日常風景が描かれていくが、目覚まし時計を止める、髪の毛を輪ゴムで留めるなど、第1回その他で何度か使われたシチュエーションが繰り返し引用されていることに注意。そういえばサンフェスのときは寝坊気味だったよなあ(笑)。
- なおこのシーンではカメラはほとんど固定で(=手ブレ表現が目立たず)、クセのあるレンズで解放気味に取ったような光学的各種エフェクトも控えめである。
- 三々五々集まる部員だが久美子と麗奈は相変わらずどつき合っている。部長は早朝の音出しを心配半分うれしさ半分で聴いている。パーカッションのナックル先輩というニックネームが説明抜きにいきなり飛び出すあたり人を食った脚本だが、回をていねいに追っていれば誰を指しているか、それと同時に、部の雰囲気がリラックスしていて良好であることが汲み取れる(ちなみに今回大きくクローズアップされたのはパーカッションのメンバーだと思う。Bパート冒頭のアイキャッチになったのは偶然かもしれないが)。
- 淡々とした準備風景の中、滝先生は譜面入れに忍ばせた写真を見て「さて、行きましょうか」と呟く。写真の主は分からない(2期への布石その1)。
- 出発前集合時の松本先生の鬼軍曹的な訓示と画面上から慌ててやってくる滝先生のシチュエーションは、サンフェスのときの繰り返し。滝先生の指は常に怪しげな印を結んでいるが、どんな意味があるんだろう?初回の神社のシーンでおみくじについてスラスラと話をしてみたり、いまだ謎の多い人物ではある。
- 手作りのお守りを配るシーンで葉月が言うセリフ「ふたり、色違いでお揃いだから」、久美子と麗奈の関係をこれ以上なく的確に表現しているが、このアニメはそういった重要な言葉を会話の中へさりげなく仕込むので油断すると聞き流してしまう。
- 部長のひとことから「北宇治ファイトー」のシーン、あすか先輩は目を伏せて皆の声を聞いた後「さあ、会場に私たちの三日月が舞うよ」と続ける。ここで三日月とは直接的には自由曲「三日月の舞」を指したものだが、月はこの物語の中で頻出するモチーフなので、彼女が言う「私たちの三日月」とは各キャラクターを通じてこのアニメーションが本当に表現したかったことの隠喩なのかなと思った。なお(この作品のために書き下ろされた)「三日月の舞」の作曲者が想定した三日月とはおそらくホルンのこと(滝先生いわく「ホルンがかっこいい曲」)、そしてもっと言うと各キャラクターの瞳の中にはしっかりと三日月が浮かんでいる。このへんはもうワタシのこじつけだけどね。
- バスの中での久美子と緑の会話。緑はあの狭い通路をどうやってすり抜けたんだろう。身体が小さいから平気なのか。
- 会場着〜準備。立華の梓ちゃんはその後の場面にもちょくちょく挟まってくるが結果はどうだったんだろう(2期への布石その2)。
- 久美子に髪を結ぶのを手伝えという麗奈。振り返ってぺたりと座り込むシーンが足下だけ描かれているが、ここは見落としがちだけどちょっとすごいテクニックの作画だと思う。
- 夏樹先輩すてき。
- 音出しのシーンから手ブレ表現が急に多用され始める。これは不安と緊張の演出だろう。
- オーボエ?のリードをいつも咥えている、2年の寡黙な蒼髪の彼女が妙に目立つけど何者なんだろう(おそらく2期への布石その3)。
- ペットボトルの水面が彼女たち彼らの鼓動と演奏にシンクロするかのように細かく波打つ。このへんは演出のうまさ。なお説明するまでもなく、水はこの作品を通じた重要なモチーフのひとつ。
- 滝先生は時々芝居がかって見えるが、ああいう浮いたセリフが許されるのはイケメンだから。もとい、よき指導者はよきモチベーターでもあるのでああいう物言いをいとわない。それに素直に応える北宇治高校吹奏楽部の面々もすっかり信頼を寄せているようである。
- ステージ裏の通路。久美子と秀一のどつき合いだが久美子の表情やしぐさが年頃の娘さんっぽくていちいちかわいらしい。これは「女の子をかわいく描くのが好きで好きでたまらない」京アニの中の人のしわざかもしれない。
- 「北宇治の皆さん、どうぞ」とステージへの扉を開ける女の子、たったこれだけのシーンで何枚使ってるんだよと思わずツッコんでしまった。普通はこんなところに労力かけないよなあ…。
- 客席に座ったのは葵ちゃん?髪型が違うのでよく分からない。
- あすか先輩と久美子の会話。「ずっとこのまま夏が続けばいいのに」というセリフから「AIR」を連想したのはワタシだけだろうか。この作品では他にも「日常」をはじめ過去の京アニ作品から引用したと思わしき演出手法が見られるが、「ユーフォ」はもしかすると一種の集大成的作品を目指して作られたのかもしれない。そう言い切るには証拠が少なすぎるけど。
- ステージ上の明かりが強くなって髪や楽器に露出オーバー気味のハイライトが乗る。この場面、暗いところから違和感なくスムーズに切り替わっているのはデジタルならではの技術じゃなかろうか。手書きまたはアナログ処理だと途方もない手間がかかりそう。
- また、明かりが強くなると同時に観客席は真っ暗になり、そしてステージ上の強い照明によって空中のほこりが照らし出され、ぼんやりとした光のパーティクルとして映り込む。手ブレ表現や光学的各種エフェクトも相まって、画面の密度と情報量は一気に増加する。
- 演奏開始。このあたり以降は実在の楽団の演奏中継みたいなカメラワークになっていて、いくつかの固定カメラで撮影した映像を後で編集したようなカット割りになっている。想像だが、作画参考用に撮影した実際の吹奏楽団の動きをかなり忠実にトレースしたんじゃなかろうか。引きの絵でさえ一切手を抜かないその努力は、執念とも呼ぶべきすさまじさである。
- 課題曲前半から久美子のモノローグ、このへんはまだ押さえ気味で推移。
- モノローグ終了から演奏後半にかけて、久美子の「絶対、全国に行く」という決意の言葉に呼応するかのように演奏が俄然熱を帯びる。アニメーションで描かれてるはずの各演奏者の気合いが伝わってくるなんて誰が想像した?シンバルを鳴らすパーカッションの1年、演奏に合わせ全身を揺らす部長…。ここの動きを見てるだけで胸がいっぱいになって泣きそうになる。
- 自由曲。いままで散々聴いてきたはずなのだが、鮮烈なイントロが鳴るとあらためて気分が高揚する。この曲は前述した通りこのアニメのために書かれたオリジナルのようだが、自然に聴こえるわりには変拍子やテンポの変化が激しいので実はテクニカルで難しいのではないか。ともかく、スコアを出版したら全国で演奏されるようになるかもしれない。
- ホルンの子の楽譜に大きく赤書きされた「全国」の文字、たかが数ヶ月でそこまで本気になったのかと感慨深いが、そう皆に思わせるほど滝先生の指導が卓越したものだったことが伺える。
- パーカッションの1年の、ドラム連打中に頭が微動だにせず身体が細かく震える描写は、パーカッション奏者なら思わず膝を打ったことだろう。これは本物を見ていないと絶対に描けない、見たとしても相当のセンスがなければ描けない、「過剰で執拗で容赦のない」このアニメを象徴するかのような屈指の名シーンのひとつ。
- 楽譜の落書きが増えてるけど解読が大変なのでパス(笑)。月とか火星とか書いてあるらしいけどね。
- ステージ裏の立華の梓ちゃんが挟まったことで、久美子がダメ出しを食らった例のフレーズは放映されていない(2期への布石その4)。
- 滝先生の指示に呼応して始まる麗奈のトランペットソロ。「大きな手」や「唇」といったものの「芝居」でエロティックな雰囲気がまとわりつく。それにしてもこの旋律は、ソロでも印象的だけど合奏になるとより際立つ。オーディションのエピソードを懐かしむような微笑みでそれを聴く香織先輩がいとおしい。余談だけど麗奈の運指は音に対して正確に描かれていると風の噂で聞いた(左手の力みまで描かれているのは驚きの一言だが)。それとファゴット?を吹いている長い髪のウェーブがきれいな3年、たおやかな表情が大人っぽくてすてきな感じ。木管・金管の人は肩が入るんだよなあ。
- ステージ裏。感極まって言葉に詰まる葉月をそっと抱きしめる夏樹先輩。こういうところを言葉にするのは野暮というものだ。夏樹先輩すてき。
- 熱演もピークを迎えて終わり。細かく触れていないが各パートの演奏シーンのアップはどれも見応え十分だった。指揮を終えた滝先生が汗ダラダラなのは当然といえば当然だが、汗は熱さを分かりやすく伝えるための演出装置でもあり、水は重要なモチーフでもあり…。
- あいさつで起立して放心する久美子。1年前から「特別になるための」経験を重ねて同じステージに立った彼女は、今なにを思うんだろうとちょっと想像している。
- 前述したオーボエ?の蒼髪の2年は、実はこの演奏シーンでは一度も映されていない。あれだけ思わせぶりに画面へ出しておいて何とも大胆な…(2期への布石その5)。
- 結果発表のシーンは第1回冒頭の繰り返し。その結末は直接的な言葉ではなく、各キャラクターの表情とわずかな会話で語られる。面白いのは、何でも思わず口走るクセのある久美子がこういうときに限ってほとんど何も言わないこと。また、あすか先輩はこういうとき不思議と必ず俯くこと(2期への布石その6)。
- 「そして、私たちの曲は続くのです」(2期への布石その7)。
…ふう。まだまだ書き切れてない気がするけど一旦止める。誰が言ったか「最終回だけで23分の短編映画として成立している」というのは全くその通りだと思う。また全体を通してみると、第1〜7回までが割と日常的な部活ものの雰囲気だったのが、第8回を折り返しとして最終回まで一気にテンションを高めて走り抜けたという印象である。と同時に、Twitterでも言ったことだが声優陣の熱演(特に久美子役)、全編を彩った劇伴(BGM)の出来のよさ…ストリングスとピアノとギターとシンセという吹奏楽では通常使われない楽器をチョイスするセンスの鋭さも含め…も大きく評価したい。
さて今作は原作小説で1巻にあたるエピソードをアニメ化したわけだが、果たして2期はあるんだろうか?小説は既に本編3巻+スピンアウト1巻が揃っているのであとはアニメ化すればいいだけなんだが…確率的にその可能性は5割くらいと予想する。上記で指摘した通り最終回だけ見ても次に繋がる伏線は多数張られているが、「ユーフォ」はストーリーといい絵づくりといいあまりにも玄人好みで、これが爆発的に売れるとは思えないからだ。仮に原作3巻までやるとしたら3期または2期+映画という構成になるだろうが、こればかりは企画側に然るべき予算がつくか否かで決まる。「動くアニメ」が好きな自分としては、京アニの手によって描かれる彼女たち彼らの未来をもう少し見てみたいという気持ちが強いので、その夢が実現することを願う。
ところでこのアニメを毎週楽しみにしていて放送が終わって放心状態になってるそこのあなた、騙されたと思って第1回から繰り返して何度も見てみるといい。もしかするとこの作品、そういう視聴方法も考慮して作られてるかもしれないと思えるくらい新鮮な驚きがあるはず。その意味で、「ずっとこのまま夏が続けばいいのに」というあすか先輩の願いは、TVアニメという何度でもループ視聴可能なフォーマットによってメタ的に成就していると言える。
追記:楽器の記述の明らかな誤りなどをいくつか訂正。こういうところはホントに疎いので…。
追記その2:夏の新作アニメを見始めたが絵の密度がスカスカに見えて困っている。しばらく「ユーフォ」の反動が抜けないだろうなあ…。
追記その3:1年のパーカスちゃんの画像をどうしても載せたかったので追加し少々加筆訂正。
追記その4:オーボエの鎧塚みぞれちゃんのカットを追加し少々加筆訂正。
追記:楽器の記述の明らかな誤りなどをいくつか訂正。こういうところはホントに疎いので…。
追記その2:夏の新作アニメを見始めたが絵の密度がスカスカに見えて困っている。しばらく「ユーフォ」の反動が抜けないだろうなあ…。
追記その3:1年のパーカスちゃんの画像をどうしても載せたかったので追加し少々加筆訂正。
追記その4:オーボエの鎧塚みぞれちゃんのカットを追加し少々加筆訂正。