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2017/10/01

宇治川のほとりで美しき調べを奏でる姫君の物語 〜 劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~ レビュー(大ネタバレあり)

2017年の春、京阪電車に揺られ三室戸駅で降りて、イヤフォンから流れるサウンドトラックに身をまかせて周りの風景を写真に収めつつ、その目的地に辿り着いたとき、ある考えがふと頭をよぎった。

「あすか先輩はいつからこの景色を見ていたんだろう?」

劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~」は、そんな宇治川の流れをひとり眺め続けてきた彼女と、もうひとりの彼女の物語である。

※以降は大々的にネタバレするので念のため改行改ページ





話を始める前におさらいとして、「響け!ユーフォニアム」の原作小説、TVアニメ、前回の劇場版と今回の映画を、以下のように整理しておく。なお原作小説のコミカライズ版と派生の短編小説などは、混乱を減らすため除外したことをあらかじめお断りしておく。

  • 原作小説:北宇治高校という架空の学校の吹奏楽部が、優れた指導者によってメキメキと実力をつけ、困難を克服しながら最大の目標である全国大会に向かうお話。主人公の黄前久美子はこのとき1年。1巻は京都府大会、2巻は関西大会、3巻で全国大会から上級生の卒業までが描かれる。なお現在は久美子が2年に進学した続編「北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」が刊行中。
  • TVアニメ:いわゆる1期「響け!ユーフォニアム」(以下TV版1期)と2期「響け!ユーフォニアム2」(TV版2期)がそれぞれ放映された。TV版1期は原作小説1巻、TV版2期は2〜3巻を基にしている。課題曲「プロヴァンスの風」から、TV版1期の放映当時と同じ2015年度の物語として制作されたと推察される。話の筋立ては原作小説と概ね同じだが、比較的ゆったりとしたTV版1期に対して、TV版2期は密度感が高い。
  • 劇場版:TV版1期を基にした「劇場版 響け!ユーフォニアム」(以下劇場版1)、そして今回の映画「劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~」(以下劇場版2)が劇場公開された。なお2018年には原作小説とその続編に基づいた映画が2つ作られることが明言されており、そのひとつ「リズと青い鳥」が発表されたばかりである(このタイトル自体が重大なネタバレになるので原作小説続編を未読の方は決して検索などせぬようご注意ください)

…ふう。今さらなんでこんなことを書くかというと、TV版1期のダイジェスト+αである劇場版1に比べて、今回の劇場版2はTV版2期を大胆にトリミング・改変していて、ほとんど別のシナリオとカメラで撮ったような印象を残すためである。極端な話、原作小説、TV版1期と2期・劇場版1と、劇場版2(とおそらく2018年の映画2本)は、同じ北宇治高校吹奏楽部でも違う世界なんじゃないか、さらにはもう吹奏楽とかぶっとんじゃってるんじゃないか、そんなことさえ思った。

まずシナリオ。キービジュアルで示されている通り、劇場版2は主人公の黄前久美子と、同じくユーフォニアム奏者の3年生・田中あすかの2人に物語のフォーカスが絞られている。この大幅な路線変更(と断言してしまおう)により、「響け!ユーフォニアム」の群像劇としての魅力はスポイルを余儀なくされてしまった。「リズと青い鳥」に先送りされたみぞれ先輩と希美先輩のエピソードはもちろん、吹奏楽部の魅力的なキャラクターは、あの麗奈でさえも久美子とあすか先輩の関係の中に沈んでしまったのである。特にTVアニメで活き活きと描かれていた彼女たち彼たちのファンは、少し残念に思うかもしれない。

次にカメラ。特にTV版1期で多用されたオールドレンズ的な画面描写はすっかり少なくなり、代わりに水平方向・斜め方向のパンが目立つように感じた。また、画面の構図・レイアウトは、あの「モロボシダン対メトロン星人」的なあすか先輩の部屋のシーンまでとは言わないが、TV版2期の映像と何となく馴染んでいない気がするところもあった。まあここは本当に個人的かつ細かい話で、むしろTV版2期のダイジェストのはずなのに新規カットが山ほどある事実が驚きである。

さてこのように、群像劇の魅力をあえて削り、その一方で新しいカットを大量に追加してまで描きたかったものは何だろうか。

1年ながらなかなかの腕前を持つ久美子に対し、同じユーフォニアム奏者であるがゆえに何かと絡む機会が多いあすか先輩は副部長兼低音パートリーダーで眉目秀麗成績優秀、さらには吹奏楽部でもトップと言っていい演奏力の持ち主で、同時に、飄々としていながら何を考えているのか分からない、掴みどころ・捉えどころがない、他人を寄せつけない人物である。TV版2期で描かれた彼女のそういう人格形成の背景が、劇場版2では大幅に掘り下げられていて、実質的に「久美子を語り部としたあすか先輩の物語」になっている。例えばこんなところ:



冒頭、宇治川の土手を一緒に歩いてきた友達と別れて家に帰ってきた幼いあすかが、大きなダンボールを受け取る。それを開けてみると中から大きな楽器とノートと手紙が出てきて、彼女はそれが「ユーフォニアム」という楽器であることを知る。

文化祭でスタンバイしているとき、あすか先輩は不意に久美子へ「ユーフォニアムが好き?」と尋ねる。久美子が言い淀みながら「先輩は吹奏楽が好きなんですね」と返すと、あすか先輩はそんなことどうでもいいと突き放す。

全国大会に向けた合宿(!)の朝、久美子はあすか先輩が奏でるユーフォニアムの美しい旋律を耳にして言葉を失ってしまう。

駅ビルコンサートの前後、あすか先輩が部活を辞めなくてはいけない事態になって皆が右往左往しているとき、久美子だけがあすか先輩の本心…ユーフォニアムとの出会い、どのようにして必死で演奏を続けてきたかを知る。

あすか先輩がいよいよ部を辞めざるを得なくなったとき、あすかの本心を知って、また、姉の麻美子の本心を知った久美子だけが、あすかの心に深く訴えかける。

全国模試の結果を知り、吹奏楽が続けられる確信が得られたとき、あすかはひとり感極まったような素振りを見せる。

全国大会という目標、さらに上の金賞を目指したが結果は銅賞。しかし、あすか先輩は悔しさとともに父へ演奏を響かせたという想いを胸に秘めつつ、久美子へ再び「ユーフォニアムが好き?」と尋ねる。久美子は迷いなく「はい!」と応える。

卒業式。久美子はあすか先輩からノートを託される。彼女が去った後に久美子がページを開くと、あすか先輩が奏でていた曲…「響け!ユーフォニアム」の楽譜が記されていた。



TV版2期で深い印象を残したシーンも多いが、このかなりの部分に新規カットが追加され、また、 TV版1期のカットも引用されている。そしてこの映画は、久美子が宇治川のあの場所であすか先輩が奏でる「響け!ユーフォニアム」を聴きいる、あの象徴的なシーンで終わるのである。



田中あすかは幼い頃からひとりで宇治川の流れを見ながらユーフォニアムを吹き続けてきた。「ユーフォニアムを吹くのが楽しい」という、まだ小さかったときの自分の感性を信じて、ただひたすらに孤独と戦いながら。黄前久美子という、もうひとりの自分が現れるまでは。まるで逆の性格なのに「ユーフォニアムが好き」という、ただそれだけで全てが分かり合える、姉妹のような関係にやっと出会えた。この映画は、田中あすかという宇治に住む音楽のお姫さまの、よろこびの物語である。



以下余談:


  • 公開初週から3週までかな?本編が始まる前にフォトセッションがあってスクリーンを撮ってSNS等に投稿していいそうなので、スマートフォンの電源はそれが終わってから切るべし。

  • 演奏シーンは大サービス。「三日月の舞」はTV版2期第五回を基本にしてるけど、構成を一部変更してるところが見どころ。それとガンキャノンの機体番号もとい左肩の赤リボンを全員に描き足して楽器に反射する照明を変えて背景を変えて…あとやっぱり「全国大会レベルだけど銅賞」くらいに演奏を抑えてる感じ。関西大会バージョンの方が聴き応えあるかもしれません…って「三日月の舞」をアニメで聴く機会はもうないのかという一抹の寂しさもあり。
  • 劇伴はついにシンセが消えてピアノとストリングスが主体になったけど、ものすごく効いてる。「響け!ユーフォニアム」のモチーフが主体になってるのはもちろん、TV版1期「はじまりの旋律」のアレンジバージョンが超聴きどころ。
  • パンフレットに収録されている小川監督×石原総監督×山田尚子氏の対談がすごく面白いので買うべし。「リズと青い鳥」の話もちょっとだけ…?


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