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2018/08/20

シネスコサイズで切り取られた少年とおねえさんのひと夏の夢 〜映画「ペンギン・ハイウェイ」レビュー(ちょっぴりネタバレあり)

映画『ペンギン・ハイウェイ』を見終わって、自分が10歳前後の頃のできごとをあれこれ思い出してみた。新学年になってわりとすぐに担任の先生が産休を取るという話になって代理の若い女性の先生が臨時でやってきて、初夏の頃に産休中の先生の家へ遊びに行って冷やし中華をごちそうになり、一方、臨時の先生のアパートの庭には野良の子犬がたくさんいて…あそこはワタシが北海道じゅうを引っ越して歩いたなかではわりと大きめの街だったけど、あの2人の女の先生と同時に思い出されるのは、産休の先生の家の前の側溝を流れる清流と傍に咲くありふれた花々、代理の先生のアパート周りに生い茂った薮と雑草である。他のことはずいぶん忘れてしまったけれど、自転車でひたすら駆け回ったあの街は、自分の中ではそういう初夏の風景として頭の中に定着している。

そんなわけで本題。映画を見て自分の経験と重ねることは普段あまりしないのだけど、「ペンギン・ハイウェイ」は身構えずに見たせいか、予想していなかった感情をワタシにもたらした。もちろん個人差はあろうが、この作品は大人びた小学生だったという自覚を持つ方には特におすすめしたい。以下、ちょっぴりネタバレしつつ、その理由をいつものようにつれづれと:




「ペンギン・ハイウェイ」の主役は、いかにも利発な小学4年生の男子アオヤマ君。なにごとにも研究熱心で将来設計も欠かさないが、通院している歯科医院に勤めるおねえさん(の特に豊満なバスト)に心惹かれてもいる。ある日、街中に突然現れたペンギンの群れの謎を解けるかなというおねえさんの問いかけに導かれるように物語は動き出す。やがて研究仲間の同級生ウチダ君や同じくらい頭が良くて可愛らしいハマモトさんを巻き込み、更なる謎が増えて…

というわけで、この映画は最近あまり無かったかもしれないと思うほど、きっぱりと潔いおとぎ話である。なので、おねえさんもペンギンも「海」も循環している小川が流れる街の謎も、リアリティ側で考えてはいけないだろう。ワタシはこの作品を、アオヤマ君というキャラクターを通じて「頭のよさそうな小学校中学年の男子の視点で世界を覗く」体験を提供しようと試みた映画というところを第一に評価したい。

これは自分の体験として断言してしまうが、あの歳ごろの男子小学生は、どんなに利口そうに見えても基本的にボンクラである。その事実が分からず、でも目の前に次々と現れる興味の対象や疑問や誘惑の数々によって、いきなり走り出してしまう。それは本能みたいなもので、明晰な思考や確実な計算は存在しない。

手を替え品を替え繰り返し描かれる「おねえさんの豊満なバスト」は、それらの象徴みたいなものだと思う。どんなに冷静に振る舞っていようと、アオヤマ君(と映画を見ている我々)の目は、おねえさんのバストに何度も釘付けになる。その理由を、アオヤマ君はまだ正確には理解していない(ましてやハマモトさんが怒る理由なんて分かるわけがない)。ペンギンと「海」と街の謎も、アオヤマ君たちはもっともらしい理屈をこねてはいるけれど、結局は謎が謎のままとして放り出されて物語は終わる。

それで良いのだと思う。

なぜなら、これは姿勢の問題だからである。

理由も理屈も分からないけれど、猛烈に興味が惹かれる対象というのが眼前に現れたとき、アオヤマ君のように突っ走れるだろうか。

おねえさんが居なくなったあと、それでもあのバストが描いた曲線の美しさを、この先も忘れずにいられるだろうか。

いつまでも突っ走って忘れない。そういう行為を、我々は「夢を追う」と呼ぶ。

今やっと意識し始めたアオヤマ君はもちろん、この不思議な夏を一緒に過ごしたウチダ君やハマモトさんは、程度の差はあれ、いずれ研究者の道を志すだろう。

「ペンギン・ハイウェイ」とは、あらかじめ用意された道ではない。誰かが発見して、そう名づけたものである。それを自覚して困難な歩みを進められるか、それとも立ち止まるか。

あの2人の女の先生は分け隔てなく、ワタシにいろんなことを教えてくれたのを思い出す。そして、いろんな問いかけがあっても立ち止まっては引き返しを繰り返して過ごしてきた臆病な自分には、この映画が何だかとても眩しく見えた。

それは2018年の夏の記録的な暑さ、そしてシネマスコープサイズの画角で描かれた瑞々しいアニメーション映像と決して無関係とは思えず、アオヤマ君とその仲間たちに問いかけてみたいと思った。もし今度おねえさんに会うことができたら、ちょっと頼んでみよう。

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