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2018/11/16

アニメで学ぶ絵と写真の現在とこれから 〜TVアニメ「色づく世界の明日から」について

その昔、アニメは手で実際に描いた絵を1枚1枚写真に撮って作ると相場が決まっていた。そんなアナログな固定概念を打ち破る作品がここ数年立て続けに現れたのだけど、2018年も終盤になって、こんなに素晴らしいものをまさかTVアニメで毎週拝めるようになるとは想像もしていなかった。

色づく世界の明日から」はそのタイトルが示す通り、色彩を主題としながら、アニメが絵と写真で作られてきたということを自覚しつつそこからの脱却を目指す、極めてチャレンジングな作品に思える。

その理由は見れば分かる。特に絵や写真を嗜む人なら、このキービジュアルがそのままアニメとして動き続ける事実がどれほど異様なことか、すぐにご理解いただけるだろう。

(せっかくなのでいつもより大きく表示させております)



本題を述べる前に軽くあらすじを。ヒロインの瞳美(ひとみ)ちゃんは高校2年生。ちょっとした魔法使いの家系だが、幼い頃に「色」が見えなくなったせいか沈みがち。そんなある日、同じくちょっとした魔法使いの祖母によって60年前にタイムスリップさせられて、祖母が高校2年生だった時代=2018年(!)の祖母=琥珀(こはく)ちゃんに会いに行くことになる。祖母の実家の長崎で、瞳美ちゃんは成り行きで出会った葵(あおい)くんが描く絵だけに「色」が見えたことに驚いて…

アニメ本編は現在放映中で折り返し点に差し掛かった頃なので、続きが気になる人はストリーミング放送か何かで追いかけてください。ワタシが話したいのは冒頭に述べた通り、このアニメにおける「色彩」についてである。

アナログの時代から現在に至るまで、アニメの色彩というのは基本的にそれほど大きく動かない。シャアのザクが赤いのは当時の日本サンライズにあの色のセル用塗料が大量に余ってたからという身も蓋もない言い伝えが本当かどうか定かではないが、キャラクターはキャラクターであるがゆえに、そう簡単にはその色を変えられないのである。

一方、製作や撮影が大きくデジタルにシフトした絵や写真の世界は現在どうなっているだろう。実物を見ていないが、例えば先日発売された新型iPad Proはもう「21世紀の画板」と呼んで差し支えなかろう。アナログでは不可能か、あるいは可能でも手間とお金が膨大にかかる色数の豊富さと彩色技法を、その気になれば誰でも使えるようになった。写真も同様で、フィルムの代わりに光を受けるセンサーの高感度化と高性能な現像アプリケーションの普及、そして機械学習の進化によって、アナログではプロしか撮れなかったような写真を、その気になればスマートフォン付属のカメラでモノにできてしまうようなところまで来た。

このように、デジタル化によって自由度が増して豊かな表現が可能になった絵と写真をアニメとして組み合わせたら、いったいどんなことになるだろう?

現在のアニメ制作において、撮影という職務はかつての「セル画と背景を重ねて順番にフィルムへ納める」というところから大きく飛躍して、「デジタルで用意された素材にプラスアルファして表現に幅を与える」という領域にシフトしているらしい。まあぶっちゃけAfter Effects大活躍って感じなんだろうと想像している。

「色づく世界の明日から」は、このような撮影技術の進歩を最初から意識することによって企画されたのだと思う。何せ「色が動きまくる」のだから。

そもそもヒロインの瞳美ちゃんには色が見えない。だから彼女の1人称視点はモノクロームで描かれるのだけど、これは「光の濃淡でしか表現できない」モノクロ写真の難しさを知る人ほど大胆な試みであるのが実感できるだろう。そして、彼女が見ている白黒の世界を起点として、物語の進行と彼女の心象風景に寄り添うかのように、キャラクターや背景の色彩が極めて豊かにシフトして、画面から溢れ出してくるのである。これは最近のイラストレーションの彩色技法の先鋭化や、HDR写真を見たときの感覚によく似ている。この大きな色彩の振れ幅を破綻なくひとつの作品としてまとめることができているのは、色彩設計はもちろん、やはり撮影担当の方の力量あってのことだろうと思う。そういえばILMの正式名称は「インダストリアル・ライト&マジック」だったっけ。

現在のアニメはデジタル制作環境の進化によって、これまで見たことのない表現を獲得しつつある。それはおそらく技術開発が停滞しない限り今後も続くであろう。デジタルで絵を用意して、デジタルで動画にして、デジタルで撮影する。それによって瞳美ちゃんが感じたのと同様の新鮮な驚きが今後も得られるのだとしたら、明日が少し楽しくなりそうだと思いませんか?ワタシはかなり本気でその未来にときめいている。







ほんのちょっぴり余談:学生の時に好きだった女性が「色」について研究発表したときからワタシのなかで「色」は特別なものになったので、このアニメを身じろぎしながら見てるのは過去の決して忘れられない過ちその他もろもろをどうしても思い出してしまうからなのです。60年とは言わんからあの時まで戻してもらえぬものだろうかねえ…
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