2019/09/13

アニメにおける歌唱・楽器演奏描写のイノベーションの現在 〜『キャロル&チューズデイ』『劇場版「BanG Dream! FILM LIVE」』を例として

いきなり本題。

アニメにおける歌唱・楽器演奏シーン描写の近代革命は、「涼宮ハルヒの憂鬱」によってもたらされたというのは、おおむね異論のないところであろう。





これを実装したのはもちろん京都アニメーションで、その後「けいおん!」シリーズや「ユーフォ」シリーズ等で、手書きによる歌唱・楽器演奏シーンの描写を究めていったのは皆さんご存知の通り。


(時間のない人は5:21あたりからどうぞ。ホントは「誓いのフィナーレ」の「リズと青い鳥」吹奏楽バージョン完全演奏シーンを見せたいのだけど…)

だけど、京アニのレベルに達しているのが京アニだけというわけでもない。そもそも、凄腕のアニメーターがロトスコープなどの技法を適切に用いて予算や工数を度外視して描けば、もはやこのくらいできてしまうのは当たり前になっているのが、現在のアニメの状況だということなんだろう。例えばこれなんかまさにそう。楽器演奏じゃないけどね。



話が歌唱や楽器演奏からズレたので戻す。現在ちょうど山場に差し掛かっている渡辺信一郎総監督のTVアニメ「キャロル&チューズデイ」。氏が手がける以上、音楽には特別に力を入れるのは事前に予想できたことだけど、楽曲のクオリティはもちろん、楽器演奏シーン専任の総作画監督を置くほど描写に力が入りまくっている。さわりはこちらの動画で見られるけど、やはり劇中のキャロル&チューズデイが弾き語りをしているところが特にものすごくいいので、チャンスがあれば一通り見ておいてほしい。





いやー曲が良すぎる…ってまた話が逸れそうになる。「キャロル&チューズデイ」の楽器演奏シーンのポイントは、おそらくロトスコープ的なアプローチを取りつつ、手書きアニメと3DCGのハイブリッドであること。特にチューズデイのギター演奏カットに注目してほしい。

じゃああくまで手書きにこだわってきた京アニや、手書きと3DCGのハイブリッドで高度な描写に成功している「キャロル&チューズデイ」が現在の頂点なのかと思いきや、フル3DCGで割って入ることに成功したタイトルが現れた。「劇場版「BanG Dream! FILM LIVE」である。



この映画、見終わった後にツイートした通り、「架空のアイドルバンドの屋外ライブを撮影したものを編集してフィルムコンサートにして映画館で上映しているという状況を描いたアニメ」なので、歌唱と楽器演奏シーンがほぼ全編を占めていて、ストーリーにあたるものが存在しない。5つのバンドが屋外ライブで次々に持ち曲を披露してアンコールを迎えて大団円、ただそれだけを描いたフル3DCGアニメ、大事なことなので再度強調しておきたい。

この映画は、前述した通りストーリーが存在しない代わりに、モーションキャプチャーを担当するアクター=実在の歌唱&楽器演奏者が存在する(「バンドリ」に詳しくないので恐縮だが、バンドによっては声優さん自身がそれを兼任しているようだ)。その動きを3DCGへ精緻に置き換え、生演奏の状態ではリカバリ不可能なミスの補正を加えて完璧なパフォーマンスに仕上げて、さらに構図やレイアウト、カット割り、カメラの配置や被写界深度の調整など、これまでアニメが散々試みて蓄積してきた演出手法を適用することで、他ではあまり見られない「バーチャルでリアルなライブ映像」を描き出すことに成功している。また、あくまでも「アニメ」であるがゆえに、初音ミクやバーチャルユーチューバーの類が行なっている光学投影式リアルライブとも違った体験を得られることも、見れば分かるはずである。

この「アニメで描かれた架空のフィルムコンサート」に、ワタシはものすごく可能性があると感じた。

京アニが手書きにこだわる限り「ユーフォ」シリーズの工数は上昇する一方なので、今後ますますスケジュールの遅延を余儀なくされるだろう。「キャロル&チューズデイ」のハイブリッド方式は工数とコストから考えれば妥当な方法だと思うが、それでも凄腕のアニメーターが必要なのには変わりがない。

バンドリ映画のフル3DCGライブアニメは、必要な数のカメラとアクターを用意して3DCGに置き換えさえすれば、あとは演出によってどのようにも描くことができる。例えば「Roselia」が映し出された瞬間の強烈なカタルシスと高度なパフォーマンス描写は、最近流行りの音楽系実写映画でもなかなか得られないもので、それはあくまでも「アニメ」だからこそ実現できたのである。

「すべての映画はアニメになる」という押井守監督によるテーゼは、ついにフィルムコンサートの領域でも実証されるところまで来た。「ボヘミアン・ラプソディ」に興奮したアニメオタクは、予習とかしなくていいので今すぐ劇場版「BanG Dream! FILM LIVE」を体験して大騒ぎほしいというのが、アニメファンとしての正直な心境である。



最後に。サンジゲンものすごくがんばった超えらい。あとやっぱりこれはオタクで満員の応援上映で体験してみたいです。