あれだけ手を替え品を替え「モケイはいいぞ」というのを連日見せつけられたら、鈍っていたモケイごころが刺激されないわけがなく、リハビリで何かお手軽な感じのものを組もうとして部屋のマウンテンサイクル(モケイや雑誌やCDなどが無造作に詰め込まれている押入れ)を覗いた瞬間、「それ」が目の前にあった。
そういうわけで今回は、 nippper で提唱されたメソッドのいくつかを念頭に置きつつ以下のプラモデルを製作して、思うところをいくつか書き記す。
あの名作(のち迷作)アニメ「宇宙戦艦ヤマト」シリーズの設定から何から大々的に見直してリニューアルされた「宇宙戦艦ヤマト2199」の続編シリーズのプラモデル化。実はアニメを見ておらず「2199」と「2202」の間に設定変更などあったのか知らないが、「同じヤマト」「同じメカコレクション」なら細かい差はほぼ無いだろうと思い買ってきた。
バンダイの「メカコレ」は、ちょっと前のiPhoneの箱くらいの大きさで様々なメカのプラモデルをノンスケールでたくさん出して、名前の通りコレクションしてもらおうというもの。数十年ぶりに買った最新鋭に近い「メカコレ」は、変わらないのは箱の大きさだけで、価格もパーツ数もディテールもすっかりイマドキ仕様になっていた。
説明書は簡素化されているけど、パーツを淡々と切り離し組みつけていけば、あのちょっと独特な「潜水艦っぽいボリュームの」宇宙戦艦ヤマトが出来上がる。常に問題となる喫水線下と煙突の彩色だが、違う色で成型されたパーツを巧みに組み合わせることで、塗料を塗らずにビシッとできあがるので、そのシルエットと色合いを気軽に楽しめる。ちょっとスミ入れしたり、艦橋の窓に緑色を置いたりすればたぶん引き立つだろうが、今回はここまでやるのが目的なのでおしまい。
いわゆる旧作キット。どうやら再販も一段落して絶版らしいが、これがなぜ部屋にあったのか、そもそもいつ買ったのか記憶に無い。それくらい気軽にいつでも入手できたのが「メカコレ」のうれしいポイントだった。ガンプラに例えると「一番最初に出た当時300円の1/144ガンダムとザク」に相当するものだけど、歴史は当然こちらの方が古い。再販を重ねるうち何度か改修が入ったと記憶していて、今回のものはプロポーション重視で艦首はそれほど「デフォルメ」されていない。もちろん、菱形の接着剤も同封されていなかった。
さて組み立てだが、最新の工具やマテリアル、そして数々の" nippper "メソッドを駆使しても設計の古さをカバーすることは難しく、「急いで作って1色だけ塗って形にする」という目的からすると不満が残った。実際かなり失敗してパーツをひとつ紛失している。「安いから気軽に買って組み立てて遊ぼう」という目的の、おそらく大多数のユーザーのなかには、パーツの精度、分割、接着ガイドの位置etc.の甘さから来るストレスが我慢できず、投げ出してしまった人も少なくないだろう。それでもこのプラモデルが長く生産され続けているのは「安くて財布が痛まない」から。結果として、プラモデル趣味の入口に立たせることはできても、その先の楽しさへ案内することがあまりできなかった、いろいろと残念な製品なのかもしれない。
ともあれそこは年の功というか無駄に年数だけは重ねたキャリアで、何とか形にした。こうして眺めると「戦艦っぽいボリュームの」慣れ親しんだ宇宙戦艦ヤマトに見えて何だかホッとする。最初は色を塗らないでおこうと思ったが、2202版と並べるため、艦底と煙突だけMr.カラーNo.385紅色を薄めずマスキングもせず筆で塗りたくった。
少々余談。ワタシはプラモデル塗装を基本アクリル塗料+汚し等の仕上げにエナメル塗料という組合せに10代半ばで切り替えて、これまでずっとそれでやってきた。ラッカー系を使わなくなったのは下宿を始めて同居人にシンナーの匂いを気づかれたくなかったのと、筆などを水でメンテナンスできる手軽さ、そして(当時高すぎて手が出なかった)エアブラシを使わないなら、むしろちょっと乾きが遅いくらいの方が塗りやすかった、等の理由による。
今回しばらくぶりに使った水性アクリル塗料のMr.カラーは、印象がかなり変わっていて、率直に言うとラッカー系塗料によく似ていた。以前より食いつきや発色が良く、何より乾きが早い。雑な筆塗りではみ出した部分のリカバリーは、以前ならカッターの刃先や爪楊枝でこそぎ落とす(!)ことができたが、今回はそれでは無理で、結局ラッカー系のシンナーを使うことになった。筆もラッカー系シンナーでなければ十分に洗えなかったので、今後の要注意ポイントではある。
閑話休題。模型に限らずモノに塗装を施す際は下地づくりと塗料の成分と性質の把握、均一な塗膜を塗布する技術、十分な乾燥、場合によっては加熱とオーバーコーティングと研ぎ出しなど、様々な知識と工程を会得しなくてはいけないが、今回はそういうのをあえて無視して、1色だけ筆塗りし、少々リカバリーして完成とした。
■おわりに
「宇宙戦艦ヤマト」は、ワタシが2番目にハマったプラモデルのモチーフである。生まれてはじめて作ったのはサンダーバードのマッチボックス的な4個セット(1, 3, 4, 5号だった気がするが失念)、そして北海道の片田舎で見たTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト」の直後にバンダイが発売したプラモデルを兄が作っているのを眺めていて、その後自分でもいろいろ作った。もちろん、「メカコレのヤマト」も。
この写真は兄が作った、おそらく一番最初にプラモデル化されたヤマトのプラモデルの残骸。第三艦橋部分に車輪が仕込んであって自走できたが、兄は車輪部分を熱したカッター(いわゆるホットナイフ)で切り飛ばし、バルサ材を積層して第三艦橋らしきものを作って喜んでいた。付属のブラックタイガーを石膏で型取りしてロウソクで溶かしたランナーを流し込んで複製を試みたりもしていたので、情報がまるで無い北海道の片田舎で、なぜそんなスクラッチやガレージキット的な発想に至り実行したのか、いまだに謎であるし、ちょうど1年前、永遠の謎になってしまった。
プラモデルは金型に熱したプラスチックを流し込んで作られる。金型は成型するごとにじわじわ痛むが、それでも、モノによっては数十年サイクルで断続的に生産され続ける。ときどき再販されるプラモデルは(時期に応じて手直しされたりするが)、ゆえに基本的には最初に生産されたものと同一であって、ワタシたちはまた新しく買うことができる。
一般的な工業製品のライフサイクルからすれば、これはとても異例だと思う。店頭に並ぶプラモデルは、中古屋さんや個人売買等を除けば、常に新品なのだ。
ワタシが散々遊び倒した宇宙戦艦ヤマトやスーパーカーやガンプラやSF・キャラクターモデル。皆が親しんだ戦車や船や飛行機のスケールモデル。最新の考証と技術を用いて作られ繊細な造形を誇る数々の逸品。それらは金型が存在する限り、何度でも新品としてワタシたちの前に現れる可能性がある。
そして、プラモデルは大切に保存すればかなり良い状態で残るし、上の写真のようにガラクタ化しても、もともと「模型である」以上の意味がほとんどないので、組み立て壊れたパーツひとつひとつに個人の記憶が容易に宿る。つまりワタシたちが同じプラモデルの「新品」を何度も繰り返して買うとき、過去の記憶が蓄積され続けるので、「新品以上の新品」を手にすることになるのである。
今度こんなすげえプラモデルが出るぞ、そういえば大昔に作ったあのプラモデルが再販されたから買って作ろうぜ、そんな戯言を伝える暇もなく兄は亡くなってしまったけれど、兄が作った宇宙戦艦ヤマトやサンダーバード、マットアローなどのプラモデルは、探せばどこかで新品が買えるだろう。それらの箱を開けてパーツを眺めて真っ先に思い浮かべるのは、おそらく、プラモデルのモチーフが活躍する劇中の場面ではなく、発想豊かでワタシに全てを与えてくれた、兄の得意満面な笑顔の記憶である。