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9/15/2020

すべての感覚をブーストせよ:「ようこそ映画音響の世界へ」レビュー(ネタバレあり?)

映画を見て劇場から出てきたら、風景がそれまでと違うように感じられた。そんな体験は、映画好きでなくても何度か映画館へ行って良い作品に巡り合うことができた人なら、思い出すこともあるだろう。

ワタシはつい先日、そういう体験をした。ただしそれはフィクションを描いたものではなく、ドキュメンタリーによって。

映画「ようこそ映画音響の世界へ」の特異な点はまさにここで、事実に基づき歴史を語りながら、同時にひとつの作品として、とても充実した体験を提供することに成功している。

以下、この映画の素晴らしさをいつものように徒然と書いておく。見てから時間が空いてしまい記憶が曖昧になってしまった部分があるため、記述が正確ではない部分が出てくると思う。今のうちに謝っておく。



最初に言っておくことがもうひとつあった。ワタシはこの映画のこのカットで、自分がこれまであれこれ考えてきたことは決して間違いではなかったと思い、喝采をあげたい衝動を抑えながら本気で泣いてしまった。


然るべき本を読めば書いてあるだろうたったこれだけのこと、数々のアニメを見ながら周囲の意見への違和感を抱えつつひとり悶々と考え続けてひとりで辿り着いたつもりの結論めいたものが、この作品で描かれる「ハリウッド映画の制作現場」ではごく当たり前の価値観として共有されていること、それが何よりワタシの心を揺さぶった。

アニメであれ実写であれ、映画≒映像作品は映像と音の2つでできている。

とかく脚光を浴びがちな映像面に対し、本来はもうひとつの大きな要素でありながらあまり語られることのなかった音、特に音響と呼ばれる各種技術についてフォーカスを当てたのが、このドキュメンタリー映画である。

この作品は、ハリウッドを中心とした映画の歴史を縦軸に、音響技術の各要素を横軸にしながら、淡々と進む。サイレント映画という始まりから劇場お抱えの楽団の時代、録音技術の誕生と映像と同時に音を記録して同期再生するための試行錯誤、録音したものに手を加える様々なアイディア、ハリウッドの凋落と復活、フランスの具体音楽や故・冨田勲、シンセサイザーとサンプラーなど電子楽器やコンピュータの登場による影響などが、それぞれの時代の代表的な作品を引用しつつ語られていく。

あの川の水の流れには、実際に何ヶ月も河川に出向いて録音したものが使われている。
あの映画のあの音は、金網フェンスを固定するワイヤーを叩いて録音したものが元になっている。
あのキャラクターの雄叫びは、猛獣の鳴き声を録音し続けて得た膨大なサンプルを編集したものである。
あの戦闘機の爆音には、実は別の音が混じっている。

現代において、生放送・生演奏でない映像作品は、映像や音を後からいくらでも加工編集できる。我々が作品を鑑賞しながら漠然と聞き流しているかもしれないその音は、監督をはじめ職人さんスタッフの皆さんの途方もない労力によって、入念に設計構築された結果なのである。

この映画がその裏側を明らかにしてくれたことで、ワタシは実写映画をはじめアニメでも何でも映像作品すべてにおいて、ますます音の持つ力に意識を注ぐようになった。さらには日常生活でも、その音のディテールに神経を研ぎ澄ますようになった。音は突き詰めれば空気の振動なので、音に意識を向けるということは自分の皮膚感覚が敏感になるということに等しい。皮膚感覚はもちろん触覚、そして嗅覚味覚に直結している。「風景がそれまでと違うように感じられた」のは、それが理由である。

とかく視覚重視に陥りやすい時代にあって、「ようこそ映画音響の世界へ」は、音≒聴覚がどれほど重要かを再認識させてくれた。コンテンツがあふれ次々と消費することが当たり前になったとしても、「これは何かが違う」と思うのは、自分が持つ感覚器から得られた情報が起点になる。すなわちその兆しを捉えられるかどうかは、あなたの五感がどれだけ鋭く働いているかにかかっている。映画好き・アニメ好きはもちろん、普通の人でも、この五感のリセット・ブースト作用のためだけにでも、この作品を見ることをおすすめしたい。


追伸:この映画は以前見てものすごい衝撃を受けた「すばらしき映画音楽たち」とペアで鑑賞すると、楽しさが何倍にもなります。ちょうど立川のシネマシティでリバイバル上映が予告されているので、タイミングが合えばぜひ。

 

さらに追記:この2つの映画を見たあとに見るべきアニメは、「リズと青い鳥」を置いて他には無いでしょう。

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