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2022/01/29

崩れたうさぎと不屈のF1パイロット 〜 TVアニメ「小林さんちのメイドラゴンS」と「平家物語」

2021年、「小林さんちのメイドラゴンS」に続けて(FOD独占配信ではあったけど)「平家物語」を見て、とても良くできていて楽しいけれど、個人的にはそんな簡単な言葉で片付けられるような作品でもなく、そうこうしているうちにメイドラゴンSはDVD/Blu-rayが発売になって平家物語は地上波&BSのTV放送とFOD以外のストリーミングサービスでも放送され始めて…このまま黙っておく手もあったんだが、他の皆さんのご意見とは相変わらず少々違っているようなので、特に比較して語る理由は無いんだが軽くまとめておくことにする。




メイドラゴンSは京都アニメーション、平家物語は山田尚子監督の"復帰作"となる。メイドラゴンは製作がかなり進んでいたようだが、放送初回のOPでぶん殴られたようなショックを受けた。


(2022/01/31まで限定公開みたいなので消えたら許して)

線と色数と原画動画の多さ、何よりアニメーションを自由自在に描き尽くす技術の高さそのものを再認識させるには充分で…作品そのものも重くなりそうなテーマを軽くいなして着地させたようで、とてもホッとしたというのが正直なところだった。

続けてFODに加入して平家物語を一気に見たが、端的に絶句した。



線をあまり細かく描かず、(人物などにほとんど影が落ちない等で分かる通り)色の数を抑えめにして、動きで見せるのはサイエンスSARUの得意領域ではあるんだが、山田尚子監督自ら絵コンテを起こして音楽を合わせるだけで、これほどの作家性がにじみ出してしまうのは、もはやベテランと言ってよい監督のキャリアのなせる技なんだろうか。



それにしてもである。メイドラゴンSにしても平家物語にしても座組は数年前に決まっていたはずで、軽々しく言いたくはないが運命じみたものを感じてしまう。

圧倒的な力で人間のことなど歯牙にも掛けない"神"であるところのドラゴンたちと、あくまで日常生活の延長線上の立ち振る舞いで接する小林さん。とりあえず出した結論は、どこか達観じみたところがある。たとえドラゴンたちが感情に任せて炎を吐き散らそうとも。

諸行無常、盛者必衰という通り、誰もが知っている結末を辿る登場人物たちと、それらの行く末を俯瞰してゆく少女・びわ。歌詞にある通り「最終回のストーリー」は決まっているのに、山田監督作品の常で花や鳥などの暗喩めいたオブジェクトが物語に深みを与えていて、そして、強い炎・弱い炎が繰り返し描かれる。



さらに、平家物語の第2話のこのカット。びわが雪で作って手のひらで運んできたうさぎが、ほろっと崩れるところ。


ああ、皆さんはもうワタシが想像するよりずっとずっと速く遠くへ行っているのだな、と悟らせるほどに衝撃的で…思い出してほしい、山田尚子監督が関わった諸作品で、「うさぎ」が重要なモチーフであったことを。



「崩れたうさぎ」は決して元に戻らない。だが、京都アニメーションも山田尚子監督も、炎を描くのにいささかの躊躇も見られない。畏怖さえ感じるその凄みにどこか既視感があると考えを巡らせて、ひとりのF1パイロットに行き着いた。

ニキ・ラウダ。古くからのモータースポーツ・F1ファンなら、氏の名前を知らない者はいないだろう。

氏は全盛期に大事故を起こし瀕死の重傷を負いながら、そのあと割とすぐ復帰を果たして翌年にはシリーズチャンピオンまで獲得してしまう。氏はその走りはもちろんのこと、不屈の闘志と勝つことへの執念を観客に見せつけたことで、我々の記憶に強く刻まれることになった。

(ブログ埋め込みが効かないので動画へのリンクを置いときますね)

彼がドライブしたフェラーリやマクラーレンは、赤と白のカラーリングが美しい。「平家物語」のメインビジュアルが赤と白なのはもちろん偶然と一致として、京都アニメーションと山田尚子監督が眩しいほど強い意志で先へ進もうとする姿を、ワタシはやはり祝福をもって迎えたい。そもそも現代の日本において、紅白の彩りはめでたいときの象徴なのである。


(2022/01/31まで限定公開みたいなので消えたら許して)

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