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2022/02/23

アシダ音響ヘッドホンST-90-05を買って聴いてみた

数週間前にTwitterのTLを流れていった「アシダ音響というメーカーのST-90-05というヘッドホンが価格のわりに音が良い」という呟きが気になって(実際に大評判で販売在庫が一時的に無くなっていた)、上記のAmazon公式ショップの在庫復活タイミングを狙って運良く購入できた。以下、既にツイートした内容も含め軽くまとめておく。

(SONYウォークマンプロ WM-DD9は残念ながら数年前に動かなくなってしまいました)

本来は放送・音響技術者などプロ向けのモニターを主とするアシダ音響というメーカーを、一時期はそれなりにオーティオへ入れ込んでいた者の端くれとしてもまるで知らなかったのは、今となっては恥いるばかりである。公式サイトによると創業70余年ということだから、オーディオ趣味的にも多くのメーカーが切磋琢磨していた昭和という黄金時代を、地道に生き抜いてきたことになる。「枯れた技術の水平思考」とは、かの横井軍平氏の有名なテーゼだが、アシダ音響の場合は「枯れた技術」そのものを徹底的に磨き抜いて、さらに多くの"現場"からの要求、つまり必要な性能が確実に出せて品質が安定していて堅牢でめったに壊れないこと、にひたすら向き合っていたように思われる。

その歴史ある業務用ヘッドホン型モニターST-90を、音楽聴取向けに調整したものが、ST-90-05とのことである。


さてモニタースピーカーやヘッドホンと書かれると、オーディオ趣味的にはやや面白みに欠けるという先入観がある。もちろんそういう用途なので我儘な話だが、音響的には決して理想的とは言えない室内にポンと置いて鳴らしたとき、または最近では主流になったストリーミング配信の音源をさらりと聴くとき、スピーカーにしろヘッドホン・イヤホン類にしろやはり好みの音色で鳴ってほしいというのが本音ではあるのだ。

ST-90-05を手に取り、簡素極まりないパッケージとレトロどころではない20世紀のミッドセンチュリーな雰囲気がぷんぷん漂う本体各部の曲線を眺めて、上記のような先入観がより強まったのを白状しておく。たぶん音源を選ばず、トラッドで端正な、そういう音がするだろう。



最初は音楽プレイヤーがわりに持ち歩いているAndroidスマートフォンへ3.5mmステレオミニプラグを差し、特にこだわりなく曲を流し始めた。

それから何時間が過ぎたのかよく覚えていない。ST-90-05が音楽を聴いて大爆笑しながらひたすら楽しくなるヘッドホンだったとは、いったい誰が想像できよう。



ST-90-05でまず驚くのは「低域が分厚く聴こえる」ことである。かのBose博士だったか、ある一定以下の周波数の音は空間に定位しないと言ったのは。さらには人間の可聴帯域下限と言われる20Hz付近の音を耳で聴き取ることは(少なくともワタシには)不可能で、体感的には巨大なウーファーから放射される空気の波動で身体が震えるのを感じ取る領域だと思っていた。ST-90-05の場合、この「空間に定位しないけど聴き取ることはできる」低域、例えばベースやドラムのキックの上のほうがボコンと前に出てくるのに、まず笑ってしまう。

それでいて中域、特に人間の声のあたりはさすが業務用と言うべきか、明瞭さが際立つ。高域については少々もの足りなさを感じたが、これはワタシの耳が加齢と長年の酷使でダメになってきているせいかも知れず、いったん保留しておく。

さらに特筆すべきは、分離と定位の良さ。ここはおそらく録音の質そのものに左右されるだろうが、楽器のある方向、音が聞こえる場所、ひとつひとつを指差しできるくらいと表現すれば伝わるだろうか。ここもさすが業務用と唸らざるを得ない。

総じてST-90-05は、その歴史的経緯と外見からは全く想像できない特異なキャラクターを持つヘッドホンである。以下、Twitterにも書いた通り、ST-90-05で各ジャンルをざっくり聴いたワタシの独断的な感想:
  • エレクトリックダンスミュージック:◎◎(びっくり!)
  • テクノ・トランス系シンセミュージック:◎
  • ロック:◎
  • ポップス:○
  • ジャズ:○〜△
  • シンフォニーや吹奏楽含めアコースティック系:△
    (△はイコライザーで補正するといいでしょう)
このヘッドホンが得意な低域が多く含まれる音源であれば、スイートスポットというかバットの芯というかツボというか、そういうのがピタリとハマるものがあって、それは音源の時代を問わない。古典的なロックや歌謡曲、テクノやハウス、EDMなど主にクラブ向けの現代的なエレクトリックミュージックを補正なしで元気よく楽しく聴ける。その裏返しで、フラットさを求められるアコースティックな音源はやや苦手なようで、そういう場合はプレイヤー側で低域を絞り気味にしてあげるのが良く、いっそ別のヘッドホンに任せてしまってもいいと思う。

(SONY スカイセンサー ICF-5500Aは何とまだ動きます)



さてここからはTwitterには書かなかった話。ST-90-05の「空間に定位しないけど聴き取ることはできる低域がボコンと前に出る」独特なキャラクターがどのように作用するのか、以下のTVアニメを聴いて確かめてみた。
  • 鬼滅の刃 遊郭編 第十話(全体的に)
  • デリシャスパーティ♥プリキュア 第1話(変身前から500kcalパンチの後までの戦闘シーンを中心に)
  • プリンセスコネクト! Re:Dive Season2 #4(全体的に)
「アニメ(を含む映像作品)は、つまるところ動く絵と音で出来ている」と日頃から言ってるワタシだが、まさかこのヘッドホンによって、TVアニメの音楽・音響の緻密で奥深い世界にあらためて驚愕することになるとは本当に思わなかった。特にプリコネの音やばいっす下の限界ギリギリまで使ってるんじゃないっすかね。

たとえ映画やアニメであってもスピーカーはふたつでじゅうぶんですよ、と、アシダ音響の中の人は言ったかどうか分かりませんが。



注:2022/02/24の販売後は在庫を確保するため(!)再販売までしばらく間が空くとのことです

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