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2024/05/22

「響け!ユーフォニアム3」感想以上深読み未満:第六回 #ユーフォ3期

油断をすると、ひとつのエピソードやひとつのカットで考え込んでしまって、あっという間に1週間が過ぎてしまうユーフォ3。書くのを忘れてたわけではないですが、情報量が多すぎるというのは視聴者としてぜいたくな悩み以外のなにものでもないので本題へ。

学生ものなら間違いなく描きたくなるイベントであるはずの修学旅行をバッサリ切って先へ突き進んだ第六回ですが、冒頭に黒江真由嬢は撮った写真を見せながらこう仰いました。

「フィルムだから…。焼き増しはするよ」
「自分が写真写るの好きじゃないの、撮るのは好きなんだけど」

彼女の家庭の事情、例えばどうして・どれくらいの頻度で転勤・転校してるのか、アナログフィルムカメラ趣味は親からの影響なのか等は劇中では一切明かされませんが、このセリフには、写真好きなら分かるウソと本音が混じっています。まず「焼き増し」について。ユーフォ3は2017年の物語ですが、その時期では撮ったフィルムを街中の現像サービスに出せば紙焼きと一緒にデータをCD-R等でもらえるはずで、それを彼女みたいなヘビーユーザーが知らないわけがありません(家に暗室があって自分でフィルムを現像しているとも考えましたが、他の描写を見るにそこまでやってはいないでしょう)つまり、アナログフィルムカメラで撮影した写真のデータを持っているはずなのに、あくまでも紙焼きを渡そうとする彼女の写真へのこだわりは、時代にあまりそぐわない偏りがあると言わざるを得ません。

その一方で「撮るのは好きだけど自分が写るのは嫌」というのはカメラ好きあるある過ぎるというかワタシ自身も全く一緒なので、この、状況を俯瞰したい、観察したい、記録したいというのは、彼女の思考・行動パターンや個性の端的な発露と言えます。

人当たりがいいように見えて妙に頑固であり、かつ、状況に深入りせず傍観を決め込もうとするこの姿勢、どうにも誰かさんを思い出さざるを得ませんが、とりあえず置いておきます。




さて今回の大イベントである府大会出場をかけた最初のオーディションに向けて全員の練習に熱が入りますが、約90名の部員からA編成の最大55人に絞るので、パートによっては競争率がえげつないことになっているのは容易に想像がつきます。久美子部長が担当するユーフォニアムパートは3名の実力が突出しているので「たまちゃんのおかあさん」こと針谷佳穂ちゃんが戦意喪失するのはとてもよく分かりますが、久美子部長としては、春に掲げた「全員が脱落することなく努力して全国で金を取る」という部の方針に則るのであれば、彼女が諦め気味の発言をしたらすぐに(たとえ本心でなかったとしても)頑張ってコンクールメンバー入りを目指せと言わなくてはいけません。

それは「私が選ばれても嬉しい人がいるのか」と問う黒江真由嬢に対しても例外ではありませんが、久美子自身がいまだに迷っているのか、部の方針というか久美子の意思をきちんと理解させられている感じには見えません。他のほとんどのパートは(1年のときにコンクールメンバーに選ばれて全国を経験した)3年の実力者がパートリーダーになってまとめているんでしょうけど、久美子はぎこちなさが抜けない部長・進路が決まらない高校3年生・オーディションを控えたユーフォ奏者という立場の間でいまだ揺れ動いています。こういうのは自分自身で解決しないと周りが苦労するので歯痒いですが。




ただ、久美子は人間関係に恵まれているのが救いですかね。今回も佐々木梓ちゃんがわりと決定的なことを言っています。

「いまバサって全部音楽をやめちゃう方が怖くない?」

いちおう美術部所属とはいえ"クラゲ"みたいに漂ってたワタシと違って、劇中の登場人物はほぼ全て高校生活の大半を吹奏楽に費やしています。それをあるタイミングで止めてしまうことの恐怖、それまで積み重ねてきた努力を放棄することは、好きだったものを自ら手放すという重大な決断を意味します。プロにならずとも関わりを持ち続ける選択肢もあるということを視野に入れている梓ちゃんは、立華で北宇治以上の厳しさを体験しているだけに達観しているのでしょうかね。何にせよ、音大に行く・行かないの二択ではない進路があり得ることを久美子が理解したのは大きなことです。いい友達持ってますよねほんとに。




さて肝心のオーディション結果ですが…葉月が選ばれて泣いたファンは多いでしょう。初心者でもコツコツ練習を続けて下級生に鈴木みっちゃんという実力者が来ても腐らず努力してアンコン編で大きなヒントを掴み成長して、ついに「チームもなか」からコンクールメンバーに選出されたわけですから。

その一方で今回のサプライズでしょう、"W鈴木"のもう片方、鈴木さっちゃんが落ちて釜屋すずめちゃんが選ばれたのは、部員でなくても疑問を持たざるを得ません。もちろん釜屋すずめちゃんのノリと要領の良さが発揮されたというか、好きなものに対して迷いなく突き進む性格の人がツボにハマると爆発的に成長するのは、他のジャンルでも似たような事例がたくさんあります(数週間でプログラミング言語を使いこなしてアプリを作ったり仕事で成果を出した初心者の実例を知っています)ただ、上手さで言えばキャリアが長い鈴木さっちゃんに軍配が上がるとチューバのトップである鈴木みっちゃんでなくても考えるわけで、実力主義を掲げたオーディションの結果に果たして全員が納得するのか、また、その結果が集団の中にどのような感情を巻き起こすかという黒江真由嬢の懸念が、いよいよ表面化したとも言えます。



その選考理由を久美子は滝先生に聞いてしまうのですが、これは久美子の悪いクセが出たところでしょう。

・彼女の音量が欲しい
・技術が未熟で吹けないところは無理に吹かず休んでもらっていて構わない

久美子にとって、あすか先輩と並んでユーフォを吹いていた時、滝先生から「ここは田中さんひとりで吹いて」と言われて受けたショックは忘れられないはずです。彼女が「上手くなりたい」「死ぬほどくやしい」と思った、直接のきっかけですから。そういうことがあって練習を重ねた結果、演奏が上手くなったという自負があるからこそ奏者としてののエゴがどうしても生まれるのでしょう。その一方で指揮者は皆のエゴより全体をまとめるのを優先する、「三日月の舞」でのあの一言以来、滝先生のスタンスは一貫していて、今回もそれに従ったまでだということを、久美子はいつの間にか忘れていました。とてもよろしくない傾向です。なお鈴木さっちゃんは皆のフォローがあったことと彼女自身の真面目さ・ポジティブさで、先を見ようとしています。久美子はとてもよく出来た後輩を見習うべきでしょうかね…




それと今回は久美子のもうひとつの葛藤であるところの、黒江真由嬢への接し方がどうにもぎこちない理由の一端が描かれます。ワタシ自身が転校を繰り返したのでよく分かるのですが、誰も友達がいないところから人間関係を構築するため、最初に親しくなった誰かにくっついていろいろ話を聞き出すのは普通にあることです。黒江真由嬢はそうやって最初に親しくなって共通点が多い久美子にアプローチするわけですが、久美子は似たようなことを散々やってきたくせに(久美子も転校生だったことを思い出しましょう)、自分に対する彼女のアプローチには頑なに、あるいは曖昧に拒否を続けています。その態度は何か本能的なもののように描かれてはいますが、久美子がいまだ避け続けてために黒江真由嬢を少しずつ傷つけていることを久美子は自覚していません。みぞれ先輩曰く「窓を開けるのが上手い」彼女は、「自分の窓を開けるのはすげえ下手くそ」といったところでしょうか。いっそ失言グゼを戻したほうがいいとすら思いますね。




さて次はいよいよ府大会。単なる視聴者であるはずの我々の胃がさらに痛くなる展開が待ち受けているんでしょうが、これぞユーフォの醍醐味でしょう。北宇治の歩く特別こと麗奈が久美子に微笑んでいるうちは、いずれ何とかなるでしょうし。




そして、次の曲が始まるのです。
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