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2023/04/08

絵と音の"joint" 〜山田尚子監督の仕事を映像作品の歴史から俯瞰する試み〜 再録版文字起こし:その2

その1からの続き)
今回の冒頭に申し上げました「絵と音のjoint」というお話の前段のところですね、これは常々私が言ってきたことなんですけども、「アニメはつまるところ動く絵と音でできている」という話から始めたいと思います。

これは何かと言いますと、アニメを含む映像作品、映画でもプロモーションビデオでも何でもいいんですけども、そこに構成要素としてストーリーやキャラクター、いろんなものが入ってきてるわけですね。そういったものに皆さんは感情移入して、その作品を好きになったりしていくわけなんですけども、そういった要素を一つ一つ分解していって、最後に何が残るかっていうのを考えた時に出てくる要素がこの二つ、「動く絵」それから「動く音」になるというふうに私は常々考えていたところです。

「動く絵」というのは実際のアニメの絵を作る工程に出てくる各要素ですね、まあ絵コンテからおそらく始まるんでしょうけども、それから原画・動画、それから背景、最近ですと3 DCGが多用されてますし、それから最終工程の撮影、ここはコンピューターによる色々な合成処理などが含まれますけども、そういったものもひとくくりにして「動く絵」と私は呼ぶことにしました。

それからもう一つの要素として「動く音」、これは耳に聞こえるものすべてというものなんですけども、声優さんの芝居、それからの物語を盛り上げるための通称劇伴と呼ばれる音楽ですね、それから色々な効果音やエフェクト、エコーやリバーブなども含まれますけども、そういったものが物語に沿ってどんどんどんどん移り変わっていく、これを「動く音」と定義していきました。

ここからなぜ話を始めるかと言いますと、映画とアニメのなりたちと歴史、これに遡って考えていくと非常にわかりやすくなっているというところをちょっとお見せしたいと思います。

いきなりざっくりとした映画やアニメの歴史を簡単にまとめてみました。

映画というのはですね、最初に映像が発明されました。写真撮影の技術を転用する形で、それ(被写体)を撮影したものを連続して流すと動いてる映像が得られるというのが出来上がった。それが通称・無声映画、サイレントと言われていたものですね。

音楽音響を同時に録音して流すというのは後から出来たものです。その間に映画、ただ動いてる絵を見せるだけでは物語が盛り上がらないということで、活弁士と呼ばれる職業の人ですね、それから劇場に専属の楽団がいた時代、それからここでサムネイルをちょっと貼りましたけども、シアターオルガンと呼ばれる、シンセサイザーのお化けのような、手と足をフル動員して劇伴と効果音を全て流すような巨大な(完全にアナログな)オルガンが各劇場にあった時代があったそうです。その後、セットでの同時録音、演技してる人に対してマイクを向けてセリフを同時に録音する技術が発明されまして、映像と音楽・音響を同時に再生するということが映画のフォーマットとして出来上がりました。その後、録音技術の発展、マルチトラック録音、それからシンセサイザーの導入、サンプラーですとかそういったものの活用ですね、さらにはデジタル化によって非常に自由度の高い編集が可能になったということで、現在は絵と音というのをそれぞれ非同期で編集して後でまとめるということが可能になってるというのが、本当にざっくりとしたまとめになります。

ここでぜひ参考にしていただきたい二つのドキュメンタリー映画を紹介したいと思います。

「素晴らしき映画音楽たち」それから「ようこそ映画音響の世界へ」という二つのタイトルです。読んで字のごとし、片方(素晴らしき映画音楽たち)は映画音楽に対してフォーカスを当てたドキュメンタリーになります。それに対して「ようこそ映画音響の世界へ」の方は、劇伴も含めた効果音やエフェクト音、そういったものを包括した歴史を俯瞰してるものになります。(この二つのドキュメンタリー映画は)独立した作品ではあるんですけども、非常に相互補完するような内容になっていまして、ご興味のある方は両方ともいっぺんにこの順番で観ることをお勧めします。

予告編を少々見てみたいと思います

—— リンクの方を概要欄に貼りますので、皆さんはそちらの方でご覧いただければと思います。

はい。そうそうたるハリウッド映画の巨匠・音楽家が映画音楽に対してどれだけ力を入れてるかというのがこのドキュメンタリーで見られます。機会があれば映画館で見て欲しいぐらいのところがあるんですけども最近公開されてませんのでもし機会があれば一通り見ていただければと思います。

ここで「素晴らしき映画音楽たち」の中には非常にキラーフレーズが入ってきてるんですけども、「映画の中で音楽が特別な力を持つ」それから「映像に音楽が加わると物語になる」「感情の潤滑剤」「映像と化学反応が起こる」、映画に対して映画音楽というのががどれだけ強く作用してるかというのを、作り手側、映画の製作者の方たちがそれだけ力を入れて望んでいるということがこのドキュメンタリー映画の中で分かるかと思います。

もう一つの作品、「ようこそ映画音響の世界へ」、こちらもご覧になっていただきたいと思います。こちらもまたリンクでご覧いただく形ですね?

—— はい。概要欄にリンクだったり貼っておきます。

はい。実は私個人としてはこちらを見た時のショックのほうがもっとでかかったんですね、さっきの作品「映画音楽の世界へ」もすごいいいドキュメンタリーだったんですけども、この「映画音響」のほうを見た時に、打ちひしがれるぐらい感動したんですよね。名作と呼ばれる映画がストーリーやキャラクターだけではなくて、音楽や音響、それとそれらを裏づけする技術ですね、そういうものに密接につながってるっていうのはこの映画で分かるんですよね。(一例として)途中ステレオから5.1ch のサラウンドになるっていうシーンが出てきて。

—— ありましたね。

あれを映画館で見たら、本当に今までずっとモノラルからステレオになってそれがサラウンドって言った瞬間に映画館でがばーっと音が広がるんですよ、技術とともにちゃんと実際に体験させてくれたんで、本当にこれ感動したんですね。映画の音の成り立ちっていうのにフォーカスした非常に良いドキュメンタリーです。

こちらにもキラーフレーズがたくさん出てきます。一番最初に私が言いました「アニメはつまるところ「動く絵と音」でできている」という話が、このドキュメンタリー映画を見た時にいきなり「映画は映像と音の二つでできている」というふうにこの方がおっしゃったんですね、それを見た瞬間に自分の妄想が単に自分の妄想じゃなくて、割と映画関係の方は意識して映像と音っていうものに対してアプローチしてるんだなっていうのが裏付けられたような気がして、もうこの時点で感動して正直泣いてしまいました。

(他にも)ジョージルーカスが「音は感情を伝える」、それからジュラシックパークの音響の担当の方なんですけども「音が最も強く感情を伝える」、それからスピルバーグが、これはオスカーの授賞式だったと思うんですけども、「音が瞬間を永遠にする」というふうに述べています。それぐらい、映画音響というのが映画にとって重要であるという事を皆さん述べているという映画です。

さてこの二つを踏まえまして、ここにちょっと書きましたけども、この二つの映画、 Amazon プライムその他の各種ストリーミングサービスでレンタル等で見られますので、機会があれば是非ご覧になっていただければと思います。

さてここで話を変えまして、本題であるところのアニメの場合、現状どうであるかというのをざっくりとまとめました。

アニメは(実写)映画と同じように「絵と音」でできてるわけなんですけども、その作られ方っていうのは大まかに言って大抵この四つのパターンで作られることが多いです。

上から順番に説明していきますと、プレスコ、プレスコアリングの略だそうなんですけども、音を先に取ってからそれに合わせて絵を後から描く手法です。アニメーションの製作初期の段階では割とプレスコが多用されていたというふうに聞いています。それからその次、ロトスコープという手法ですね、これは有名なところでは「チカっとチカ千花っ♡」、それから古見さんの2期のエンディング、それから映画「音楽」というタイトルのアニメーション映画があるんですけども、それもロトスコープを使っています。これはですね、実際に俳優さんに演技をしてもらって実写をまず撮ります、それを元にしてアニメーションの絵を作るという形になります。一緒のトレースに近い手法ではあるんですけども、単純にトレースしただけではアニメーションになりませんので、そこはアニメーターの力が必要になります。もう一つ、フィルムスコアリングという手法があります。これは実写映画では非常に多用されてるというふうに伺っています。それから最近(のアニメ)では劇場版のプリンセスプリンシパルなどがフィルムスコアリングを採用したという話を聞いています。これはどういうことかといいますと、先に映像を作っておいて、その映像を見ながら実際に指揮者が指揮をして(楽団が)演奏するという手法になります。ですので臨場感が高いやり方になるようですね。今でもアニメーションではかなり多用されてるという印象です。そうは言ってもですね、日本のアニメの場合はアフレコ、アフターレコーディングの略だと言われてますけども、あるいはアテレコとも呼びますけども、これが主流というふうに言われています。まず先に絵を描いて音を後から合わせていく、絵を見ながら声優さんがその絵に合わせて演技をして、絵に合わせて音を編集していく、そういう作り方をしていることが多いです。大まかに分けてこの四つというのをまず覚えておいてください。

さて、それぞれの手法について参考になる動画をいくつかご覧になっていただきたいと思います。まず一つ目がディズニーですね、今回は「ファンタジア」という作品をご覧になっていただきたいと思いますので、予告編が公開されてますのでご覧になっていただきたいと思います。予告編ですから合法です。しかも宣伝用ですからね、はい、全然合法です(笑)。予告編を見ただけですごさは分かりますし、「ファンタジア」をさっき調べたら Amazon プライムのレンタルか何かで見られるんですね、これは是非通しで見て欲しいですね。リマスター版が本当に素晴らしかったらしいので(最近の劇場公開に)行けなかったんですけど。これが1940年ですから、日本では戦前と言われる時代に作られていたと。

—— 戦前にこの動きがアニメでできてたのってすごいですよね。

(予告編をもう一度再生して)もう1回見ますと、これディズニーの当時のドキュメンタリー等で見ますと、もうほとんどアニメ技術の総動員してるらしいんですね、さっき言いました四つの技法のうちの、プレスコとロトスコープとフィルムスコアリングとアフレコみたいなことは全て全部やってる、ディズニーのこの時代のアニメ映画の製作のドキュメンタリーを見ると、プレスコをやってるんですよ、(音に合わせて実際の役者さんを)演技させて、それを見ながらアニメーターさんがそのキャラクターはこういうふうに動くんだっていうのやってます。ロトスコープやってるかどうかはちょっと怪しいんですけども、フィルムスコアリングもおそらく入ってると思いますねここには。アフレコもおそらく編集段階でやってるとは思うんですけども、ただいずれにしても戦前ですよね、日本ではまだアニメーション、商業アニメーションが立ち上がってない時代に、フルカラーでフルアニメーションでしかもこれだけの完成度、「絵と音」のシンクロをすでに極めていったと言っていいぐらいの完成度のものが既に出来上がってしまっていたわけですよね。しかもこれはアナログのセル画のフィルムですから、こういう絵のグラデーション、色のグラデーションまで全てアナログで一コマ一コマ色を置いてるわけなんですけど。

—— 光が差し込んでいる表現とかアナログでどうやってやってんだろうと思いましたね。

まだこの時代はオプチカル(光学)合成もなかったはずですから、全部手書きなんですよね。一枚一枚背景に合わせてセルで色を全てー

—— 変えてるってことですかね。

変えて描いてる状態ですね。すさまじい。「ファンタジア」に関しては日本での公開は戦後になります。これを見て例えば手塚治虫だったり宮崎駿(など日本の商業アニメーション草創期に活躍された皆さん)だったり、あるいは東映動画、東映の映画の関係者ですかね、ディズニーの戦前に作られたアニメーションを見てものすごく大きな衝撃を受けて、「俺達も作るぞー」という大きな動きができます、これによって日本の商業アニメーションが立ち上がるという契機になった作品(のひとつ)ですね。非常に見応えがある、今の目線で見ても何ら遜色のない凄まじい映画だと私は個人的に思いました。

このファンタジアが1940年に作られて日本で戦後に公開されたんですけども、日本の商業アニメは戦前に作られたディズニーのアニメを見た方々が「日本でもこういうの作るぞー」と一念発起して作り始めたわけなんですけども、紆余曲折ありましたけども「絵と音」を両方を意識しながら非常に印象に残る作品を作る監督さんがたくさんいらっしゃいます。



その3へ続く)
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