- 客観的に上手い
- 中長期的なビジョンを持っている
- 強いリーダーシップを発揮できる
あたりでしょうか。久美子の演奏技術は黒江真由と同等でどちらも上手い、と劇中で語られています。また、本人はあまり明言していませんが途中で脱落者を出さず結果を求めるというビジョンめいた価値観もあります。残ったのはリーダーシップ、あなたは部長としてふさわしい指導力があるのか、皆を導いていけるのかという点ですが、麗奈から「部長失格」の烙印を押されてしまったので、否応なしにそこへ向き合わざるを得なくなる、はずなんですけど…
「ギリギリにならないと動かないのはいつものこと」
と赤メガネの誰かさんに喝破されるあたり、まだまだ自覚が足りないようで、困ったものです。
まず久美子は部の雰囲気が揺らいでいる理由を間接的に滝先生へ尋ねていますが、今の滝先生は生徒への干渉を意図的に控えているように感じますから、当然、答らしいものは得られません。もちろん自分がソリを外された理由も解決しないままです。
それから合奏練習で部員たちが不満の声を上げ始めるところ、パートリーダーではないけど1年からコンクールメンバーである実力者の赤松・堺が発言するところは重要です。北宇治高校吹奏楽部がわりとフラットな組織で言いたいことを言える雰囲気が保たれている、また、パートリーダーだけではなく各メンバーが部のことを考えて行動しようとしているのは良いことですが、仮にこの発言が今年度から選ばれたメンバーや1年からだったら、逆にもっと険悪になっていたかもしれません。
まあしかし高坂麗奈の一方的な指導や発言も限界に来てしまい、メンバーの不満を解消せず力づくで押さえ込んだままでは良い結果が望めないのは自明で、幹部3人にも大きな亀裂が入り、「王手飛車取り」から「詰めろ」…受けを一手でもミスれば自玉が詰む、絶体絶命の段階にきちゃったというのが前半でしょうね。
…で、やや脱線しますけど、このAパートの作画(とあえて呼びます)が、後述するBパートに比べても京都アニメーションにしては珍しくところどころ妙にヨレてるんですよね。意図的なのかあえて直さないことにしたのかは不明ですが、ストーリーの演出のためにこれで行くと決めたのだとしたら余程の覚悟がない限りできんなあと、リピートして見るたびに身が引き締まります。少なくともユーフォーテーブルやMAPPAの人気コンテンツでは認められんでしょう。
さて例の絵葉書がブリッジとなるBパートには皆さん待望の?あすか先輩と香織先輩がルームシェアして(!)登場します。彼女たちが住んでいるのは京都市内の出町柳から西に行ったあたりで、ずばり「たまこまーけっと」「たまこラブストーリー」の舞台近辺ですが、(今回はあまり目立たなかったものの)鴨川デルタとその周辺には物語を動かす力が宿ってると地元の方は信じてるんでしょうかね?先日の京都旅行の際にも伺いましたが、常に誰かしらが集まってくる雰囲気は、観光地ではない人々の憩いの場という印象で、あそこでボーッとしているだけでも悩みのひとつふたつは確かに解決してしまいそうではありますが。
ともかく重要なのは、久美子とあすか先輩の久しぶりのやり取りですが…久美子の動揺をばっさり切り捨てるあたり、あすか先輩はさすがと言わざるを得ません。黒江真由の辞退申告を受け入れろというのは単純明快かつ論理的で、また、(部長として)どうすればいいかと問われて知らんと即答するのは余裕のなせる技でしょう。「滝さん」と呼ぶなど、彼女にとっては北宇治高校吹奏楽部はもはや2年前の過去の通過点に過ぎないのかもしれません。髪を紫に染めるとか言い放つような人ですしね。紫ですよ紫。
もちろんあすか先輩にとっては久美子は(魔法のチケットを授けるほど)特別な存在なので見捨てたりしないところが、彼女らしくもあります。
- 北宇治は実力主義とか言ってるけど結局は久美子のわがままに過ぎない。
- しかし皆が答を出してから行動しているとは限らない(=おそらく滝先生も黒江真由も迷っている)
- 久美子の長所は無責任に言いたいことをいってしまうところ(褒め言葉です念のため)
ここから、黄前久美子に求められる最後のピースである、彼女自身がリーダーシップを獲得するための助走が、おそらくシリーズ屈指の名シーンとして描かれます。あの宇治橋を涙ながらに駆ける場面のセルフオマージュという意味以上に
黄前久美子が走る時
物語が大きく動くという合図でもあります。ワタシはおっさんなので、これは「帰ってきたウルトラマン」第38話の
だなあと感じたりしましたが…関西大会の演奏直前の黄前久美子の、聞き役に徹していたからこそ「1年間、みんなを見ていて思いました」という言葉に説得力がこもる大演説に、これ以上ない形で生命を吹き込んだ黒沢ともよさんの芝居は、ユーフォシリーズひいては日本のアニメーションが何を表現しうるのかという点において、今後何度も参照され語られていくことでしょう。
ここは他にも見どころだらけで、久美子部長と秀一副部長、それを見て高坂麗奈が皆に向かって頭を下げるのは確かにアルペジオっぽいよね、というのは放送直後の感想会のネタですね。それとオーディションから外れて悔しいはずの久石奏が夏希先輩のような眼差しで久美子を見守っているところが、人は成長するんだなあと実感できてよかったりします。
あとこれは個人的な妄想ですが、黒沢ともよさんはここの収録に臨むにあたりものすごく思い詰めて、台本に書かれたセリフを、何かに取り憑かれたような勢いで一気に捲し立てたんじゃないでしょうか。テイクをいくつ重ねたかは不明ですが、何となく一発で決めてしまった気がします。なんせあの緊張感と迫力に満ちた演説からのこのセリフ、「黄前久美子ならここでこう言っちゃうに違いない」というアドリブ以外は考えられませんから。
あとは、この段階に至ってもなお我を通したがる頑固者をどうにかせんといかんわけですが。まさかブラックキングなみの手強さだったとは放送開始時には全く予想してませんでしたけど。
そして、次の曲が始まるのです。