「変ですよね、学校の吹奏楽って」
リアルな吹奏楽の世界では一種の禁句めいた話題らしいところまで切り込んでくるあたり、ユーフォ3の覚悟の程が再確認できます。
それはともかく久美子の進路や麗奈との関係、そして黒江真由とのわだかまりが相変わらず続いている様子が描かれているのが今回です。途中から別のアニメみたいな見た目になりますけどね。
さてそのユーフォ3では演奏シーンを大胆にカットして、久美子1年生時代の関西大会での「奇跡」と称される「三日月の舞」を超えたとすら賞賛される、今回の高坂麗奈と黒江真由によるソリの様子まで視聴者に見せず聴かせず関西を突破して全国に駒を進めた、というのは構成としては百歩譲って納得しましょう。ただ、劇中の1年生はともかく、アニメを見守るひとりのファンとしては、府大会から関西大会を経て全国に至る久美子と黒江真由の音の成長や違いだけでも、せめて劇中で聴かせてほしかったというのが本音です。まあTVアニメ1期・2期や誓いのフィナーレに似た構成や演出は使えないのは百も承知ですが…この際、最後まで一度も「一年の詩」の演奏シーンを描かず終わらせてしまうというのも、案外悪くない選択かもしれません。
冗談はさておき、久美子が関西大会のステージ上で黒江真由の実力に対してあらためて脅威を感じたこと、その一方で黒江真由がいまだにソリの辞退を申し出てくることに複雑な感情を抱いている点は、前回述べた「久美子が部長として皆を導いていくための条件」をクリアする、つまり皆を導くだけの実力を備えていることを黒江真由を相手にあらためて証明する必要があるので向き合わざるを得ませんし、久美子自身の「麗奈とソリを吹いて終わりたい」というわがままに決着をつける意味でも、もはや譲れない一線でしょう。このあたりはひとりの奏者としてのエゴが強く作用してもいそうですが、麻美子ねえちゃんに半泣きでついエゴと自己嫌悪と葛藤にまみれた本音をこぼして、ねえちゃんはねえちゃんでそれをやさしく受け止めるあたり、しみじみと涙を誘います。ここは、「みぞれ先輩の大学の演奏会へ行く準備で化粧をしてあげてる」という点が、また見逃せません。
この他にも、この回は何か示唆に富んだ会話やシチュエーションが散見されます。
滝先生との会話における、冒頭に挙げた高校の吹奏楽への違和感について若き滝先生が述べた率直かつ批判的な見方と、それに対する亡くなった奥さんの(おそらくは当時の滝先生の価値観をひっくり返して余りあるであろう)回答。
進路が決まったサファイア川島のお祝いの席で高坂麗奈のアメリカ留学決定が知らされ、動揺しつつも仲直りする場面(プロのトランペット奏者になるためにアメリカへ行くって麗奈は実はジャズ志向なのか等の疑問はいったん置いておきます)
そして黒江真由の再三再四の辞退の申し出にしびれを切らす形で口を出す久石奏。
その黒江真由の今や最大の理解者である釜屋つばめちゃんの一言。久石奏とも違う彼女の広くて深い視野と端的な言葉が、黒江真由に思索を促していることは重要です。それによって退部したりソリを辞退するという選択肢が取れなくなっているのは事実ですし。
とまあ、前半は各キャラクターの心境の変化を追う形で進むわけですが、後半はみぞれ先輩の大学の演奏会に集まった南中カルテットの4人と久美子と麗奈が、みんなしてよそ行きのおめかしをしてるもんだから、ユーフォじゃないみたいな華やかさになるところがとてもおもしろいです。まあ中身はあまり変わってないようですが…
で、ですね…ワタシはユーフォ2期の第一回を見て以来、「ダッタン人の踊り」を聴くと条件反射で号泣してしまうようになってるんですが、定期演奏会の演目で管弦楽曲バージョン、つまりは吹奏楽アレンジでない形で聴けるなんて想像も心の準備もしてなくて、当然ながら号泣また号泣ですよ…しかもこのオーボエの音色は紛れもなく鎧塚みぞれの奏でる音そのもので…(後で知りましたが、ずっとみぞれの演奏を担当して北宇治高校定期演奏会等でも演奏されている方がそのまま吹かれているそうです)
(参考:管弦楽バージョン+バレエ)
(参考:吹奏楽バージョン)
やや話が逸れました。そのみぞれ先輩が久美子に対して、久美子が音大に居る姿が想像できんと言い放ちます。これは難解ですけど、実際に音大に入ってみたら久美子みたいなタイプが見当たらないという意味ではないでしょうか。まあ管弦楽にユーフォニアムが組み込まれることは稀らしいので、「ユーフォっぽい」性格の人がたまたま周りにいないだけかもしれませんし、みぞれは相変わらず希美以外の他人には興味が薄いのかもしれません。
というわけで、この時点で久美子が決めるべき事柄のひとつ、将来の進路が消去法ながら決まります。彼女が音大に進まないと決心したことを受けて、親友(というか"特別")の関係を終わらせると宣言する麗奈はいかにも極端で重い性格してるなあと思いつつ、久美子がそれをいなしてこれからも互いに"特別"であり続けると納めるあたり、いかにも「ユーフォっぽい」性格の表れに思えます。
さて残すところあと2回。全国に向けたオーディションと、その結果と、全国大会での演奏と、その結果と、久美子たちの卒業がどこまで描かれるのか。何をどうやっても尺が足りないと思うのですけど、ここに至り我々も腹をくくる必要があります。誰がなんと言おうと時間を戻すことは決してできないので。
そして、次の曲が始まるのです。