さて本題。いまさら説明するまでもなく「ユーフォ」はとても面白い作品で、高校吹奏楽部の成長を描くという王道の青春ものながら、吹奏楽部員ひとりひとりのキャラが透けてみえるほど緻密なディテール、細やかな心象描写、力の入った作画、ダメレンズと形容されるほど強烈な撮影、きわめて印象的な音楽など、アニメを構成するどの要素を取り出しても、それぞれに語るべきものがある密度の濃い物語である。今回はその舞台となった、宇治市と物語の関係について考察を進めてみたい。
宇治市は京都市の南にある京都府内で2番目の人口を有する街だそうだが、あらためて地図を確かめてみると、実はかなり大きな面積を持っていることが分かる。
アニメの舞台を実在の街に求めてロケハンを敢行し画面に登場させるのは、「ガールズ&パンツァー」の大洗町や「ラブライブ!サンシャイン!!」の沼津市を例に挙げるまでもなく、作劇手法のひとつとして定着している。ヒットしたアニメのロケ地は「聖地」と呼ばれて、ファンで賑わい観光収入が増え…といった具合に地域振興の有力な手段のひとつとして徐々に認知されつつある、というのがワタシの認識である。
「ユーフォ」の「聖地」はもちろん宇治市だが、地図をよく見ると、物語がだいたい市街中心部の宇治川沿いから(北宇治高校という架空の学校の最寄りだと設定された)京阪電鉄六地蔵駅付近までの、ごく一部の場所だけで展開されていることがお分かりいただけると思う。比較用に、有志がまとめたマップを引用しておく(オープニングに一瞬だけ出てくる名古屋の某所までマッピングされているのでお手数ですが宇治市近辺を適宜拡大して見てください)。
「ユーフォ」が他のアニメと決定的に違うのは、宇治市の実際の街の広さに対するロケーションの狭さ、そして例えば、平等院とその参道、JR宇治駅前の道路から一本入ったところにある商店街といった、他の作品なら必ず使いたくなるであろう有名な・印象的なロケ地をばっさりとカットしているところである。
(世界遺産なのにアニメには名前すら登場しない平等院)
いくら高校生の部活もので彼女たち彼らの移動手段が電車と自転車と徒歩に限られているとは言え、このロケ地の扱いはあまりにも思い切りが良すぎる。そこには何らかの意図が隠されているのではないか?
…というのが、「ある仮説」を着想するきっかけであった。
(2)へつづく。